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リバティアカデミーオープン講座 坂東玉三郎講演会「演じるということ 2015」

学生からの質問に真摯に答える玉三郎さん 齋藤教授との“名コンビ”で会場を盛り上げる

歌舞伎界を代表する女形で、人間国宝の坂東玉三郎さんを招いたリバティアカデミーのオープン講座「演じるということ 2015」が6月8日、駿河台キャンパス・アカデミーホールで催された。玉三郎さんの講演と、齋藤孝文学部教授との特別対談の二部構成で、学生を含む約1000人の観客が壮大かつ繊細な“玉三郎節”に酔いしれた。

「今はデータ重視で、イメージを持つことができない時代。人と人とのかかわりも同様に、イメージが持てなくなっているのではないか」と講演の冒頭、現代社会への警鐘を鳴らした玉三郎さん。さらに、「生活が豊かになって食に困らなくなり、『生きていかねばならない』という生命力が薄れてきたように思う。肉体的には生きていても、精神的にはフラットになってしまった」と厳しく世相を斬った。

学生との質疑応答では、中国からの女子留学生が「『今日と明日のことだけ考えて生きる』とテレビで以前語っておられたのが印象に残っているが、では明後日はどうするのか?」と質問。率直な問いかけに場内から笑いも起きる中、玉三郎さんは「今日と明日を精一杯生きなければ、明後日は来ないし、未来にもたどり着かないということ。非常に素晴らしい質問でした」と真摯に答えていた。

続いての特別対談で、齋藤教授から生命力の源を尋ねられた玉三郎さんは「“やむにやまれぬ情感のほとばしり”ですね」と奥深い一言で返し、加えて「生まれてきた矛盾というか、自分が何かを失っているという悲しみと、芝居をやりたいという気持ちの振幅が激しい」と自身の内面を表現した。

本講座のテーマでもある「演じるということ」に話が及ぶと、「台詞というのは、想念の羅列です」「芝居ってね、増幅と凝縮なんです」などと独特の言い回しで熱弁を振るった。

対談の終盤には、有吉佐和子の戯曲『ふるあめりかに袖はぬらさじ』の中の「それにしてもよく降る雨だねぇ」という台詞を客席全員で情感を込めて言う、即興の演技指導も。

老若男女の観客すべてを“玉三郎ワールド”にいざなった本講座は、大盛況のうちに閉幕となった。

坂東 玉三郎(ばんどう・たまさぶろう)

歌舞伎俳優。1950年生まれ。7歳で坂東喜の字(きのじ)の芸名で初舞台を踏み、64年14代目守田勘弥の養子に。歌舞伎座「心中刃は氷の朔日」で5代目坂東玉三郎を襲名する。気品溢れる姫役をはじめ、吉原の花魁役など女形の最高峰と呼ばれる絢爛豪華な美女役で絶賛される。2012年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。