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本棚「私学の誕生 明治大学の三人の創立者」明治大学史資料センター 編(創英社/三省堂書店、1,700円+税)



歴史記述にはおおむね二通りの叙し方がある。公的な、国家的な、正式な「正史」と、私的な、民間的な、非公式な「稗史」がある。歴史書と歴史文学の分かれ道がここにある。この二筋道を一本化した歴史記述を成立させたいと願う。そのためには、純正なる良質の「正史」がなくてはかなわぬ。

だからこそ、かねてから質の高いコンパクトな明治大学誕生「正史」がないものかと、ひそかに願ってきた。明治大学誕生期と創立者3人とを共々に叙した「正史」を、校友や在学生や教職員も、まちがいなく心待ちにしていたはずである。膨大な資料を博捜して梓に上した『明治大学百年史』(全4巻)がある。岸本・宮城・矢代創設者それぞれに言及した好著がある。ただ、大学誕生史と創立者論に特化した質の高いコンパクトな「正史」はなかった。わたしの念願はこの著によって適えられたことになる。

山泉進・村上一博・野尻泰弘・村松玄太・阿部裕樹各氏はすぐれた史家として、この事業に携わって、ここに最良のテキストとしての明治大学誕生「正史」を差し出された。わ たしどもは共有する喜びを得たのである。

コラム欄も「正史」叙述に厚みを出す。

吉田悦志・国際日本学部教授