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本棚「パリ移民映画 都市空間を読む 1970年代から現在」清岡 智比古 著(白水社、3,500円+税)



本書は、いま最も新しくホットなパリを紹介してくれる必見の書である。「パリ移民映画」というジャンルそのものをテーマにしているところが、この本が優れてアクチュアルなフランス論であることを物語っている。本書は、パリとパリの郊外を舞台にした映画を網羅的にリストアップするところから始まり、パリの5つの地区を舞台にした映画をそれぞれ一本取り上げ、場所との密接な関係の中で、移民がどのようにパリ、ひいてはフランス社会を内側から変えていっているかを浮かび上がらせる。本書を読めば、フランスがいかにこの40年間で変化したかを、いわば映像を通して、具体的に辿ることができる。それは「おしゃれ」なパリでも、華やかなパリでもおよそない。現実の、現代の、原寸の、「本当の」パリなのである。移民映画を通してパリを再探訪させてくれる本書は、日本語においてだけでなく、フランス語でも、フランス文化にたいする移民の影響を証言する稀な文献として先駆的な存在であると同時に、きわめて意義深い資料である。

根本美作子・文学部教授(著者は理工学部教授)