本書は、引退した文楽の竹本住大夫に、髙遠・福田両氏が長時間にわたりインタビューを続けた「聞き書き」である。というと特殊な分野の、よく言えば専門的、悪くすると「通」の世界の読物のように聞こえるかもしれない。だが、そういう「偏見」から本書を読み過ごすのは、大きな損失である。
本書には、長年の蓄積と努力と年輪の実感される、優れた「芸談」にあるような、二つの大きな特徴がある。
一つは、一人の少年が多彩多様な修業や辛い軍隊生活を経て徐々に成長して、努力と苦労の末に栄光を得る「芸道物」的側面である。私の記憶でも文字大夫時代の五、六十歳代の住大夫は、率直にいって特徴をあまり感じない大夫の一人だった。それが晩年大きな存在になる過程も私には感慨深い。
二つは、魅力的な芸談の持つ時代背景の抜群の面白さである。歌舞伎、映画、レヴューから野球の回想に至る昭和戦前期のモダン大阪の都市文化の厚みと蓄積を、柔かい語り口から聞く喜びと味わいは、他に替え難いものがある。
神山彰・文学部教授(編者はともに商学部教授)
本書には、長年の蓄積と努力と年輪の実感される、優れた「芸談」にあるような、二つの大きな特徴がある。
一つは、一人の少年が多彩多様な修業や辛い軍隊生活を経て徐々に成長して、努力と苦労の末に栄光を得る「芸道物」的側面である。私の記憶でも文字大夫時代の五、六十歳代の住大夫は、率直にいって特徴をあまり感じない大夫の一人だった。それが晩年大きな存在になる過程も私には感慨深い。
二つは、魅力的な芸談の持つ時代背景の抜群の面白さである。歌舞伎、映画、レヴューから野球の回想に至る昭和戦前期のモダン大阪の都市文化の厚みと蓄積を、柔かい語り口から聞く喜びと味わいは、他に替え難いものがある。
神山彰・文学部教授(編者はともに商学部教授)