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管啓次郎教授(理工)が米・コロンビア大学で講演

理工学部の管啓次郎教授が4月28日、米・コロンビア大学で講演を行った。管教授からの寄稿を掲載し、講演の模様を紹介する。

コロンビア大学セン・レクチャーを終えて

写真提供=ドナルド・キーン日本文化センター

コロンビア大学といえばニューヨークにある、アメリカを代表する超一流大学のひとつ。そのキャンパスを初めて訪れた。マンハッタンのアッパーウエストにひろがる瀟洒な都市型キャンパスは、学期末のせいか学生たちで混雑し、ざわめきの中にも緊張感が感じられる。

今回ここを訪れたのは、同大学ドナルド・キーン日本文化センターが主催する「セン・レクチャー」のため。裏千家からの寄付金を基金として1988年に創設された、日本文化の理解に貢献する内容の一般向け講演だ。過去の講演者は、武満徹や司馬遼太郎、瀬戸内寂聴や桐野夏生と、錚々たる顔ぶれ。これに詩人として招待されることが決まったのがほぼ1年前で、以後半年あまり、どんな内容にするかさんざん悩んだ末、結局「見えない波 2011年3月11日以後の日本のアーティストたち」というタイトルで1時間ほどの英語講演を行うことにした。

4月28日当日の会場は、バーナード・カレッジ(付属女子大)にあるレーマン講堂。マリリン・アイヴィー教授(文化人類学)による紹介の後、ぼくは自作朗読をはさみつつ、東日本大震災がさまざまな分野の創作にどんな影響を与えたかを論じた。取り上げたのは畠山直哉(写真)、高山明(演劇)、片桐功敦(華道)、岡部昌生(美術)。親しいつきあいのある、尊敬する友人たちばかりで、かれらの真摯な心を改めてたどりつつ、震災の経験が日本社会に問うもの、現在の課題を考えてみた。

しめくくりは、過去数年間にぼくが南相馬で撮影した写真のスライドショーを背景にした、自作の長い詩「かかしの神」。さらに写真家の友人たちと「リワイルディング」をめぐる共同プロジェクトとして取り組み、3月に完成したばかりの南相馬の自然を主題とした短編ドキュメンタリー「水の記憶、土の記憶」(監督:古木洋平、制作:赤阪友昭、ぼくは脚本担当)を上映した。さいわい、聴衆からの反応も非常によく、終了後にはハルオ・シラネ教授(日本文学)ら同大学のみなさんとも内容のある議論ができた。

収拾にはほど遠い事故後の原発の現状、誰を利するものかもわからない巨大防潮堤など、根源から考え直さなくてはならない問題は多い。そして思考はつねに、耳を傾けてくれる人を待っている。今回の講演が新たな対話の糸口を提供できたなら、まずは成功だったといっていいのかもしれない。

理工学部教授 管 啓次郎