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本棚「入門テキスト 安全学」向殿 政男 著(東洋経済新報社、2,200円+税)



「あるとき、見知らぬ二人が、突然、私の研究室を訪ねて来られ、「(中略)安全の研究に戻ってください」と要請されたのです」(本書「はじめに」)。これを契機に、著者は本格的に「安全学」へと一歩を踏み出していく。安全への使命感に満ちた3人のやりとりを思うと、なんだろう、グッときてしまう。というのは、工学的で一見理知的な営みと思われる安全学が、じつはきわめて人間的な取り組みにほかならないことを、このエピソードは示してくれると思われたからだ。じっさい、安全は夢だった。機械化・産業化にひた走り始めた20世紀初頭、志にあふれた青年たちが抱いた夢だった。社会の発展は生産力の増強や経済成長だけではない。それらによって人々が幸せにならなければ意味がない。その思いはそのまま1世紀を経て、冒頭の3人の出会いにまで貫かれている。じつに安全学は時代の「次」を探る情熱の所産なのだ。本書をひもとけば、随所にその一端がうかがわれることだろう。入門書と思ってあなどってはいけない。

鞍田崇・理工学部准教授(著者は名誉教授)