スウェーデンの投票率は86%と先進国の中でもきわめて高い。税金が高いから政治への関心は当然高くなるのだろう、というくらいに考えていたのだが、この本はそんな単純なことではないことを教えてくれる。特に若者の投票率の高さは低い日本と対照的だが、その背景には、たとえ子どもでも社会の一員として尊重され、社会科の教育では権利や義務の主体として育てられていることを、教科書の叙述を通じて明かしている。本書の構成も教科書のように、社会、メディア、個人と集団、経済、政治、法律と権利、という順になっており、各章は教科書の翻訳部分の次に鈴木ゼミの学生たちの驚きを交えたコメントが会話形式で置かれ、そのあとに訳者の総括が置かれている。けっこう難しいテーマを学んでいるが具体的であり、学生たちのコメントもツボを押さえていてコトの重要性を理解する上で有効。改憲論が現実味を帯びてきた昨今、この書が日本人の主権者意識の希薄さをスウェーデンの社会科教育のあり方との対比で問いかけた意義は大きい。
白戸伸一・国際日本学部教授(編訳者は国際日本学部教授)
白戸伸一・国際日本学部教授(編訳者は国際日本学部教授)