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本棚「ロケットの正午を待っている」波戸岡景太 著(港の人、1,800円+税)



詩集のような手触り。そしてポエティックなタイトル。だが、騙されるなかれ。ここには仕掛けがある。「ロケットの正午」とは、とある物騒なエピソードを下敷きにしている。ロケットとは、ナチスによる試作ロケットのこと。民衆は轟音のする午後をどのように過ごしたのだろう。「ロケット」という夢の技術が、悪夢へといとも簡単に反転する。なんとも物騒な日常だ。しかし考えてもみれば、そんな反転的な日常を私たちは生きてきた。著者は、平和ぼけした日常の化けの皮を剥がそうと奮闘する。ホロコーストへの思考を軸に、アガンベンと吉田修一、イーグルストンと村上春樹らの文章とともに、批評を深めていく。視野は広く、読みは深い。ピンチョン研究者にして、環境批評からラノベ、ボブ・ディランまで論じる、気鋭の批評家によるあらたな境地。ダーク・ツーリズム批評とよぶべきか。活版印刷による丁寧なつくりも、なにか意味深である。物騒な時代だからこそ、手にとって、文字どおり触れてほしい批評エッセイ集である。

山本洋平・理工学部専任講師(著者は理工学部准教授)