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本棚「古代日本神話と水上交流」堂野前 彰子 著(三弥井書店、8,300円+税)



主題は水上交流である。そこに生起する交易・貨幣・交換などをキーワードとして古代日本神話のみならず、韓半島や琉球の神話にまで解読の翼を広げ、それらに潜む原理をつかみ出そうとしたのが本書である。瀬戸内海と日本海をつなぐ三つの水系に注目することからこの本は始まる。網の目のような河川の道は、陸路の常識的な視点に代わる新しい世界観を明示する。その結果、風土記や記紀神話、万葉集のいくつかが「川の文学」としてつながりをもって見えてくる。

「環東シナ海文化」という伝播交流のルートも提示し、琉球の「遺老説伝」や韓国の仏教説話集『三国遺事』まで鳥瞰しつつ、それらの説話の発生と意味を読み解いていく。本書には古代文学の伝承や歌も交易の対象なのだというひとつの到達点が用意されるのだが、このような方法によって古代神話から中世説話そして遠野物語などを取り上げ、時代や地域を超えて存在する思考や世界観を解き明かしている。壮大な視野をもつ書である。

居駒永幸・経営学部教授(著者は経営学部兼任講師)