Go Forward

告辞「鳥よりも高く」学長 土屋 恵一郎

卒業生のみなさん、卒業おめでとう。今日は2017年3月26日。それは何かを記念する日ではないけれど、君たちが明治大学を卒業する日として、君たちの記憶の中で色あせることのない記念の日となる。それは全ての人の記念の日ではないけれど、今日まで君たちを見守ってきた人々が今一度君たちのこれまでの日々を思い起こす確かな記念の日となる。君たちが小学校に入学した時のことを知る人には、今日の君たちの姿は誇らしく見えるのはもちろんのこと、喜びとなつかしさの涙の記念の日ともなる。1966年6月30日。およそ50年前のここ日本武道館。ビートルズのコンサートがあった。今日の日本武道館にはその日の歓声は聞こえないけれど、君たちの心には、新しい出発への励ましの声が響いている。

君たちが卒業する明治大学は、136年前の創立の時から、青春の大学であった。まだ30歳前後の若き三人の青年法律家によってこの大学は創られた。私立大学としての自由を掲げて創られた。そして今も、明治大学はその思いを受け継いだ青春の大学である。自由と活力を中心にして新しさを求め、未来を求めて前に進んでいる。その活力は君たちの大学生活のうちに確かにあり、これからの日々を支えてくれる。

これから君たちは社会に出て会社や組織に入って行く。そこで必要なことは実はそんなに多くはない。10数年前、私は、ある銀行のアメリカ駐在員と知り合いになった。彼は、10年ほどアメリカにいて、バブル崩壊後の不良資産の整理にあたっていたバンカーであり、有名なゴルフ場であるペブルビーチ・ゴルフクラブの整理を担当していた。結果的には買った時の数倍の価格で売却することに成功する。その彼に、最近はグローバル人材と騒がしいけれど、グローバル人材とは何だと思うかと聞いたことがあった。彼は即座にこう答えた。「土屋先生。それはインテグリティーですよ」と。インテグリティーとは、高潔さとか誠実さという意味だ。

英語が話せようと、プレゼンテーションがうまくても、誠実でなければ、誰もついてきてくれない。アメリカ現地の従業員の信頼を得るには、日本本社の意向ばかりを考えていてはだめなのだ。自ら従業員に向き合いウソをつかず、自ら決断しなければならない。そこで誠実さが、インテグリティーが問われる。繰り返しになるが、社会ではそれほど多くのことは必要ない。現実には、社会はとても単純なルールで動いている。ウソをつかず、決断に誠実であることだ。自らの言葉をもち、その言葉に誠実であればいい。

そして、もう一つ、ある力があれば、この世界で何かを生み出すことができる。それは想像力だ。詩人であり演出家でもある、現代日本を代表する一人、寺山修司はこう言ったことがあった。「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない。人間に与えられた能力のなかで、一番素晴らしいものは想像力である」。私もそう思う。目の前の事柄に対して、ちょっと違うラインを引いて見る。誰かの言葉を知って、その言葉から発想してみる。本を読む意味もそこにある。自分の言葉や、これまで考えてきたことから、ちょっと逸脱してみれば、違う世界が見えてくる。

今日君たちは明治大学を卒業する。鳥よりも高く飛ぶがいい。そして羽根を休めたくなったら、明治での日々を思い起こして、自由な青春を呼び戻して、何でもできる力を取り戻せばいい。卒業生のみんな。グッドラック。きっと良い人生がある。どんな困難があっても、きっと誰かが助けてくれる。絶望など人生には必要がない。全てを捨てるようなことがあっても、この世界には生きる楽しみがある。再び全てを得ることができる。70歳になった私が言うのだから、間違いはない。もう一度言おう。グッドラック。良き人生を。卒業おめでとう。