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論壇「明治大学の変わらないもの」

教務担当常勤理事 中村 義幸

人が変われば社会も変わる。社会が変われば人も変わる。いずれであっても、変わらないのは、人も社会も変わるということである。

そこで、明治大学校歌の歌詞の一部を定点として、創立135年を迎えた本学の変貌ぶりや課題を観察してみたい。本学は、1881(明治14)年、明治法律学校として産声を上げた。2017(平成29)年には、10学部・12研究科、法科大学院、専門職大学院3研究科を擁し、毎年7千人前後の学部・大学院生を入学・卒業させ、創立以来50数万人の校友を輩出している私学の雄として発展を遂げている。この間のさまざまな社会的要請に真摯に対応して「変わって」きた結果である。他大学のように郊外に移転しなかったことにより「白雲なびく駿河台」と幸いにも出だしの歌詞は変わらないが、和泉、生田、中野を含めた4校地構成には財政上はもとより、教育・研究にとっても課題が少なくない。

本学の建学の精神は、校歌の2番にある「権利自由」「独立自治」にある。筆者はかつて「権利自由」の確立に向けた歩みについて、日本国憲法の制定により制度的な欠陥が大幅に改革されたが、ベルリンの壁に象徴されるいわゆる〈冷戦〉期にはその十全の実現を阻まれたために、なお本学の教育・研究を嚮導する価値があると論じた。それにしても、1989年ベルリンの壁の崩壊から間もなく一世代(30年)を迎えるが、「国際化」から「グローバル化」さらには「反グローバリズム」の展開へと誠に目まぐるしい。その誘因は、基本的には経済的な利害関係とみられるが、混乱の主たる要因は、本来的には東西問題に発する難民問題と南北問題に発する移民問題が複雑に交差して世界的規模で多発し始めたことによるとみられる。人も社会も変わる中で、それゆえに「権利自由」は人類普遍の原理に由来するといえよう。

「独立自治」は「個を強める」と明快この上ない。ここでいう「個」は、おそらく憲法13条でいう「個人」(individual)に加えて「個性」「人格」「人となり」「人柄」(Personality)の意味を併せ持っている存在を意味するのであろう。したがって、前者の意味である独立してさまざまな社会活動ができる存在になるだけでは足りず、倫理的・道徳的な高い評価はもとより、困難な仕事にも果敢に挑戦する勇気とリーダーシップが求められる。かつて冒険家の植村直己氏が事故死の後、そのモデルに擬せられたことがある。

校歌の最後は「正義の鐘を打ちて鳴らさむ」で閉じられる。ここでいう「正義」とは何か。古今東西「正義」の内容を巡って万巻の書が物されてきたが、ここでは2点のみ指摘したい。「公平」(equality)と「公正」(fair)である。最近の国内外の出来事に接するにつけ、不公平や不正が止む兆しは見られない。正義の鐘を繰り返し乱打せざるを得ない所以である。

かくして、明治大学の教育・研究は、人と社会が変わっても、個人が等しく権利自由を享受し、より公平で公正な社会を築くために、創立以来、燃える希望をもって刻苦研鑽を積み重ねる個性を育成し続けているのである。
(情報コミュニケーション学部教授)