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本棚「阿久悠 詞と人生」吉田 悦志 著(明治大学出版会、2,000円+税)



阿久悠(校友)は小説・エッセイの執筆や、テレビ番組やイベントの企画・制作など数々の仕事を手掛けた。とりわけ作詞家としての業績は多大で、5回にわたる日本レコード大賞の受賞作をはじめ、その作詞作品は実に5000曲以上にものぼる。こうした壮大な事績を一冊にまとめるのは容易なことではないが、本書は文学・女性・父という三つの基軸を設けることによって、阿久悠における人生と作詞の本質を鮮やかに浮き彫りにしている。それらの中心を貫くのは品格・品位であることを、生い立ちや家族との関わり、学生生活、創作・作詞活動などの軌跡を丹念にたどることにより、また名曲「舟唄」や「ジョニィへの伝言」、「津軽海峡・冬景色」などの作品を分析することによって明らかにした。狂おしいほどの熱情を内に秘めつつも、なお秩序と規範を順守する阿久悠という品性がくっきりとした輪郭を備えて読者の前に立ち現れる。本年は阿久悠の没後10年・生誕80年に当たる。この節目の年に、昭和歌謡の巨人の足跡が詳らかになったことはとても意義深い。

冨澤成實・政治経済学部教授
(著者は国際日本学部教授)