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論壇「情報化の推進とセキュリティ対策」

情報担当常勤理事 荒川 利治

18世紀イギリスの蒸気機関開発に始まる第1次産業革命以来、19-20世紀に石油と電力を活用した大量生産期は第2次産業革命、20世紀後半からのコンピュータによる情報処理の時代は第3次産業革命と命名されてきた。ドイツ政府が技術戦略「インダストリー4.0」で提示したIoTは、第4次産業革命の中心に位置付けられるが、これまでの「産業革命」とは異なる性格を持っている。

パソコンやサーバー、プリンタやスキャナなどの情報関連機器を接続するためのインターネットに、それ以外のモノ(Things)を接続することを意味する「モノのインターネット」をIoT(Internet of Things)と呼んでおり、実用化される前から急速な普及が期待されている。職場にいながら自宅の掃除・洗濯をスマートフォンなどで操作することを想定すれば、IoTは人工知能(AI)、ロボット、ビックデータなどとの密接な連携が不可欠である。現在は、第3.5次産業革命期にあり、IoTに関しては、物流、スマートハウスなどビジネスチャンスの夢は膨らむ。しかしながら、社会生活にどれ程、どの位のスピードで浸透するか明確な予測はない。

さて、第3.5次産業革命のこの時期にあって、大学に携わる私たちの課題は何か。近年、サイバー攻撃は増加・巧妙化の一途をたどり、他大学でも研究室のウエブサイトが書き換えられたり、学籍情報、教職員の個人情報、あるいは各種IDとパスワードがネットワーク経由で窃取されたりするなどの被害がニュースになっている。このことに関しては情報セキュリティ管理の脆弱性が問題視されるが、大学のインターネットと将来のIoTを見据えれば、インターネットのユーザーであるすべての構成員(教職員、学生、共同研究に従事する研究員など)に対して、日常的に防御行動できる仕組み作りが急務である。第一歩としてはサイバー攻撃の現状と脅威を周知し、危機管理の浸透、情報セキュリティに対する意識を向上させることが必要である。情報システムの管理者は、情報セキュリティ管理を日常的に点検して、常にその評価を怠らず、学内で危険性を感知した場合には学生、教職員に注意喚起をすることは当然である。サイバー攻撃と情報セキュリティの安全への取り組みには、危機管理の体制が必要である。学内で発生したインシデントに対して迅速に対応できる強固な体制構築が欠かせない。

社会における情報化は量、質ともに増大し続けており、大学においては授業前後に書籍に加えてインターネットによって知識を入手することが前提になっている。教室ではパソコン、スマートフォンを含む情報機器を利用した授業も少なくない。アクティブ・ラーニングの概念は浸透を始めているものの、グループ・ワーク、ラーニング・コモンズなどの施設設定の議論は緒に就いたばかりである。この時代の大学教育において何より大切なことは、大学でしか得られない学ぶことの醍醐味を経験させることはもとより、研究を通した深い人間教育によって自らが受信・発信する情報の取り扱いに対する倫理観を学生たちに周知することであろう。ネット授業、公開オンライン授業などの実施に当たっても、情報セキュリティ対策を後回しにすることは許されない。
(理工学部教授)