Go Forward

本棚「ロンドン歴史地名辞典」A.D.ミルズ 著 今野 史昭 他 訳(柊風舎、15,000円+税)



倫敦——文豪夏目漱石が文部省派遣の英語教員留学生第1号として19世紀末から20世紀初頭にかけて2年間滞在していたことはあまりに有名である。その間、漱石は1901年2月2日に大英帝国の君主ヴィクトリア女王の荘厳な葬列を目の当たりにしている。

ロンドンの歴史は古代ローマ人の侵攻によるロンディニウム建設に遡るが、現在でもシティー周辺には当時の城壁が残っており、2000年前を感じ取ることができる歴史が息づく伝統の街でもある。その悠久のロンドンの地名と起源を網羅した待望の辞典が本書である。

本訳書で特筆すべきは、その序論で約100ページにわたり地名の成立過程を歴史的観点から詳細に説明し、1700項目以上の地名の起源を解りやすく解説している点である。

オックスフォード大学出版局の500ページにも及ぶ翻訳に費やされた労力と忍耐に心から敬意を表すると共に、その卓抜した出来上がりには驚嘆する以外にはないであろう。イギリス関係の研究者のみならず、少しでもロンドンに関心がある人には必携の一冊である。

宇野毅・経営学部教授(訳者は商学部専任講師)