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本棚「日本の企業家9 丸田芳郎—たゆまざる革新を貫いた第二の創業者—」佐々木 聡 著(PHP研究所、2,400円+税)



百年超企業には大抵「中興の祖」と呼ばれる優れた経営者がいる。花王の丸田芳郎もその一人である。年配の人だと、月のマークと言えば花王、花王と言えば石鹸となるが、社名から「石鹸」が外される1980年代から多様なヒット商品を生む。花王は創立者の長瀬富郎以来、品質と斬新な広告で経営革新を遂げてきたが、研究開発重視の丸田の下で製品多角化が進んだ。
若いころ、失恋で会社を3日も休んでしまうような一面もあり、オーバーに言えば、このような一途さが研究にも経営にも革新をもたらしたと言えなくもない。いっぽうで、「論語と算盤」を掲げた渋沢栄一のように、聖徳太子や道元の教えを経営に反映させようとした実践家の顔も持っていた。

著者の丹念な資料調査とインタビューが、経営者の人間像を浮かび上がらせ、経営史研究者の著作ではあるが、読み物としても面白い。またこの著書は、90年代以降の長期低迷下で欧米式経営改変を試行してきた日本企業に、日本的経営の強みを丸田の挑戦から改めて再認識する契機を提供している。

白戸伸一・国際日本学部教授(著者は経営学部教授)