Go Forward

論壇「強い絆でさらなる飛躍を」

理事 田部井 茂

戦後復興期から高度経済成長、バブル崩壊、そして「失われた20年」を経て今に至る日本の経済状況の中で、各家庭における学費負担は重い。世界との比較として、経済協力開発機構(OECD)の調査によると、加盟国の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出は、比較可能な34カ国中で日本は3.2%と最低。高等教育への家計負担割合は51%と最も高く、日本の高等教育が重い私費負担に支えられている実態が見て取れる。しかし、急速に高齢化が進む日本では、人口動態的な見地からも、公的支出を教育に手厚く振り向けるのは難しいのが実情だ。

進む少子化も頭が痛い。日本の18歳人口は、1992年の205万人をピークに、現在は約4割減って119万人。2040年には88万人と予測される。一方で進学率は50%を超え18ポイント近く上昇し、知識基盤社会を支える人材の創出の明るい期待も垣間見える。

政府は「人づくり革命」を掲げ、消費増税分財源の使途見直しを進めている。与党の教育再生実行本部からは、授業料の「出世払い方式」などを含む報告書が提出され、政府の骨太方針に盛り込まれる方向となった。すでに豪州で実績のある制度だが、家計によらず、学生自身の主体性がより尊重される形の奨学金制度を、私たちも積極的にフォローして良いと考えている。

見方を変えれば、日本の少子高齢化は深刻だが、生産性向上を生み出す技術革新(イノベーション)にとっては宝の山だ。生産性はヒトやカネを使ってどれだけ効率的にモノやサービスを生み出せるかを測る指標だ。代表的なものが労働生産性で、労働者1人が一定期間にどれだけの価値を生み出せたかを測る。もう一つの代表的な指標が全要素生産性(TFP)だ。労働生産性が生産に必要な要素の中から労働力に着目するのに対し、TFPは技術革新や規制緩和、教育水準の向上などによって、どれだけ賢く働けるようになったかを測る。例えば、海外からの旅行者に対して、AI(人工知能)技術の進歩による翻訳、位置情報と乗り物、規制緩和による民泊などとの連動が、教育も含む新たなコト消費を増やし、新たなサービスを生み経済を成長させるといったものだ。

私たちが高めなければならないのも、まさに後者の生産性であろう。人口のみに限らず、日本の「拡大の時代」はある種の到達点に達した。物質的な面で欧米をうらやむことはほとんどなくなる一方、経済成長は頭打ちとなり、国内総生産(GDP)も中国に抜かれたが、これは衰退期のはじまりではなく、量から質へ転換していく成熟期に入っていると捉えたい。

来年は明治維新から150年。あらたな近代日本の再構築が進む中、「知の創造と人材の育成を通し、自由で平和、豊かな社会を実現する」使命に燃ゆる本学の役割が、ますます重要となっている。

本学も来る140周年、150周年を見据え、校歌に象徴されるように、「文化の潮みちびきて(1番)」、「権利自由~独立自治の旗翳し(2番)」、「我等に燃ゆる希望あり(3番)」のフレーズを道標として、教職員、校友会、父母会等が強い絆の下、教育・研究・社会貢献並びにスポーツ・文化交流等に積極的に取り組み、さらなる飛躍を目指していきたい。
(学生支援部長)