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本棚「米州の貿易・開発と地域統合—新自由主義とポスト新自由主義を巡る相克」所 康弘 著(法律文化社 3,000円+税)



年初に就任したトランプ米大統領は、米国通商政策の柱であるNAFTAの見直しと、そのアジア太平洋への拡張と目されたTPP協定からの離脱を決めた。本書はこれらを理解するうえでも最適の書である。貿易論や国際政治経済学が専門で、メキシコ留学経験のある著者は、米国政府や多国籍企業が主導する地域統合を鋭く斬る。本書では、NAFTAを始め米州の地域統合による貿易・投資の自由化が及ぼした影響を実証的に分析し、未だに残る不均等な構造的問題を浮き彫りにする。その反動で南米に誕生した左派政権のもとでも、本質的な問題克服には至っていないという。他方、米国でも自国が主導してきたNAFTAやTPPを反故にするトランプ氏が大統領に選出された。いまや不均等な構造的問題は、米国内部でマグマのように溜まっている。新自由主義や市場主義の陰に隠れていた、資本や階級という言葉が浮かび上がる。本書は、米州のいまを理解できる卓越した地域研究であるだけでなく、新たな「大きな物語」を探る世界経済を展望するためにも必読の書である。
小林尚朗・商学部教授
(著者は商学部准教授)