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本棚「共にあることの哲学と現実——家族・社会・文学・政治」岩野 卓司 編著(書肆心水、3,900円+税)



20世紀以降、地下世界の悪夢から抜け出せない。一度この穴に落ち込むと、あらゆる希望をすてよ、と宣告されるのだ。本書に収められた8篇の論考は、そのような闇を全身で受け止め、その不条理性、暴力性、不可視性を思考し尽くそうとする。

本書は現代世界について記された報告書の類いではない。そうではなく、世界内での思考そのものなのだ。難解であるとすれば世界そのものが難解なのだ。論者らは対象に丸ごとぶつかり、苦闘し、手探りで進んでゆく。本書はそのような出口を探す天使たちの自画像である。理解は特定の足場に留まることを要請するが、その足場自体が地崩れの危険にさらされている。論者らはこの昏く深い穴ぼこにいながらにして、共にあることの可能性を探求してゆく。

あなたのことは分かりました、とは安易に口にしない態度。困難さゆえに生まれる逡巡や沈黙が言葉の闇を照らし出すかすかな光。そのような言語実践は、まさにデリダやブランショらに連なるものだ。

岩野教授の卓越したエディターシップに感嘆あるのみ。

井上 善幸・理工学部教授
(編著者は法学部教授)