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論壇「新しいタネ、『明大文物館』(仮称)の建設を」

価値観が変わる今、その受け皿づくりのために

政治経済学部長 小西 德應

グローバル化対応をはじめ、本学は喫緊の課題をいくつも抱えている。そのため今ある資源の多くをそれらに向けることは当然であり、学部長としても諸課題の解決に取り組んでいる。そうした今、あえて将来に向けて別の種をまいておく必要がある。多様な種をまきたいが、資金にも人手にも限界がある。比較的に、低コストで高い成果が期待できるものを優先させたい。そこで「明大文物館」(仮称)の設立を提案する。

これまでも時折「明大アーカイブ」構想が唱えられてきた。だがアーカイブというと文書や書籍等の記録物がまず想起されるので、「文物館」とすることで、本学関係者の多様な文物、世界の美術や工芸、生活用具なども含めて広く収集・展示するものを想定したい。

この考えに至った背景には、20年余り前に在外研究をオックスフォード大学でおくった体験がある。同大学には巨大な自然史博物館ほかいくつもの博物館があるが、世界初の大学博物館といわれるアッシュモレアン博物館が目を引いた。入館は無料で、ミイラからミケランジェロの素描、日本の工芸品なども多数展示されており、寄贈品も多かった。同様の取り組みが早稲田大学でも行われている。1998年開館の會津八一記念博物館である。同大学の教員で書家でもある會津の収集品や書を中心に、早大卒業生の作品や寄贈品などを展示している。同館の中には、卒業生ではないが、実業家の富岡重憲が寄贈した茶道具を中心とした東洋の美術品展示室もある。別の展示室では多分野にわたる研究成果が発表されることもある。

本学はどうだろう。刑事、考古、商品の三部門からなる明治大学博物館の他にも、大学史資料センターや阿久悠記念館など、各々が独自のすばらしい専門コレクションを持っている。昨年度までに大学に寄贈された故大岡信教授の遺品は図書館が管理するそうだ。中には美術品なども多数含まれることから、図書館の手に余るかもしれない。また図書館には収書方針があるので、それに合致しないものを収蔵することは難しいかもしれない。事実、生田図書館には、和泉第二校舎の設計や数寄屋建築で知られる故堀口捨巳教授の資料が「死蔵」されている。私が研究代表を務める三木武夫関係資料は一般公開がなされないまま数年が経過した。

本学には55万人と言われる校友と多くの教職員OB・OGがいる。その人々の手になる研究成果や美術・工芸品はもちろん、政治家や弁護士、公務員、企業人らの資料、スポーツ関係の品々、さらには個人の多様なコレクションなど、多くの価値ある「財」が眠っている。今後そうした文物を積極的に寄贈してもらうためにも大学で幅広い品の収集・展示の態勢を作りあげたい。戦後70年以上がたち、世代と価値観が大きく変化している今こそ「知」と「財」の受け皿づくりが急務である。
(政治経済学部教授)