Go Forward

本棚「昭和浅草映画地図」中村 実男 著(明治大学出版会、2,500円+税)



本書は著者のライフワークともいえる「映画の風景からみる街の昭和史」の浅草編である。著者の調査によれば、浅草を舞台にした戦前・戦後の映画の数は約150に上る。本書は、それらの作品の中から代表的な映画を取り上げ、映画のストーリーを紹介しながら映画の中の風景を通して浅草の街の変遷を解説する。今はない瓢箪池など懐かしい風景も見える。また、浅草映画地図として、六区興行街など誰もが知る浅草の名所の映る映画が名所ごとに紹介される。

関東大震災、東京大空襲、高度成長を経て、浅草の街並みは大きく変容した。しかし、浅草の風景がどう変わろうとも、浅草の匂いは変わらない。オペラ俳優(『浅草の灯』)、門付けの師匠の娘(『乙女ごゝろ三人姉妹』)、ストリッパー志願者(『胸より胸に』)など、浅草ならではの主人公の活気と悲哀。それらが風景と二重写しになって、映画は浅草の街の匂いを伝える。

著者は映画を「風景の記憶装置」と呼ぶ。本書は、その映画という風景の記憶装置によって時代を経ても変わらない昭和の浅草の街の匂いを描き出している。

北岡 孝義・商学部教授
(著者も元商学部教授)