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論壇「地球温暖化対策について考える」

理工学部長 久保田 寿夫

2月に行われた理工学部一般選抜入試の前日に福井県の受験生から問い合わせがあった。大雪のため、試験会場に行けないかもしれないという内容である。昨年は各地で大雨の被害が発生した。夏場には35度を超える日も珍しくなくなった。明らかに気候変動が起きている。地球規模の大きな課題の一つとして、温暖化の抑制が挙げられる。温暖化の主要因は、化石燃料の使用による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出にあると考えられていることは周知の通りである。

この問題を解決(実際には解決することは極めて困難であり、低減というべきであるが)する方法は、化石燃料に代わる再生可能なエネルギー源にシフトすること・機器の効率を改善すること・発生した温室効果ガスを回収処理することである。いずれも工学的な技術が大きな役割を持っており、理工学部で行われている研究にも期待されるところである。いくつか例をあげると、高効率太陽電池や高効率LEDなどのデバイスを作成するナノテクノロジー、出力変動のある自然エネルギーを使用するために不可欠なエネルギー貯蔵技術、ガソリンエンジンの効率改善を目的としたエンジン内部の計測技術などの研究が行われている。

ところで、これらの方策を実際に普及させるためには政治的な側面が大きい。1997年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議で温室効果ガスを1990年から6%削減することになった。対象の期間は2008年から2012年の5年間である。この内容はたびたび周知され、会議の略称であるCOP3や京都議定書という言葉は一般にも浸透したのではないかと思う。

省エネ法(正式にはエネルギーの使用の合理化等に関する法律)がたびたび改正され、エネルギー消費量の多い機器の効率は飛躍的に改善されている。家電量販店の広告では、エアコンや冷蔵庫は「電気代が10年前の半額」というような文言が盛んに掲載されていた。ハイブリッド自動車のプリウスは2009年から大幅に増産され、一番の人気車種となっている。同じ年には太陽光発電による電力の固定価格買取制度が開始されている(大規模なシステムが優遇されたため、利益目的の業者が乱立し、森林伐採やその後の大量倒産など、内容には不備があったと言わざるを得ないが)。

一方、現在の目標については、ほとんど周知がなされておらず、新たな施策も見えていないように思われる。2015年のサミットで2030年に向けた目標を公表し、同じ内容を2016年に閣議決定しているのであるが、その内容を認識している国民は何%であろうか。個人の意識が重要になっている。
(理工学部教授)