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論壇「近時の情報開示に学ぶ」

経営学部長 大倉 学

様々な領域で国際化が、そして国際標準化が進められている。企業活動の領域では、伝統的には製品のインターフェイスの整合性確保等という視点から、近年では競争環境整備や技術の普及等の視点からも標準化は進められている。

企業の情報開示の領域でも、決算書(財務諸表)の作成・開示に関して、一般に国際会計基準と称される一つの標準的基準がある。IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)である。今日では世界で144の国や地域が何らかの方法でIFRSを採用していることがIFRS財団の調査結果に示されている。IFRSに基づいて作成・開示することで、決算書の国際的比較可能性が高まり、ひいては全世界の投資家に向けた有用な情報提供につながるという点やグローバルな経営管理が可能となる点等が指摘されるところである。わが国では2010年から一定の要件を満たす企業によるIFRS適用が認められ、その数は東京証券取引所によれば6月現在で161社であり、その数は増加傾向にある。

一方で、わが国企業の411社(D&IR研究所調べ)が自発的に作成・公表している報告書がある。「統合報告書(Integrated Reporting)」である。2013年に国際的なフレームワークが示されたものの詳細な作成ルール(標準ルール)はないにも拘らず積極的開示が続く。

この報告書は、簡潔に言えば、企業が中長期的にいかにして企業価値を生み出そうとしているのかを、財務情報と非財務情報とをあわせてステークホルダーに説明しようとするものである。価値創造プロセスを様々な視点から統合的に示そうとするところに情報有用性が期待され、多くの企業が自発的に作成しているが、その内容・形式はまちまちでありこれから何年もかけてその標準化が図られるのであろう。

営利企業での情報開示のありようをそのまま移行することはできないが、われわれは様々な価値創造を担っており貨幣計数以外の様々な数値データをもっている。ステークホルダーは学生、父母、校友に留まらず教職員、地域、所轄省庁等も対象であり相互の価値交換を経た価値創造プロセスを考えていくことができる。

最近ESG(Environment、Social、Governance)が企業の持続的成長に係る議論の俎上に載ることが多く、これらに関する自発的・積極的情報開示も重視されている。

標準化され求められる情報とは別に、例えば学部の3ポリシーそれぞれに基づく入試制度、カリキュラム改革、人材育成等をステークホルダーとの価値創造プロセスとして定量・定性両面から統合的に語る可能性を学ぶところである。
(経営学部教授)