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論壇「若者の政治意識を変えるには」

国際日本学部長 鈴木 賢志

内閣府が2013年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』によると、「私個人の力では政府の決定に影響を与えられない」という意見に同意する日本の若者の割合は71%に達しており、同じ調査を行った他の諸外国と比べて最も高かった。政治学で言うところの政治的効力感(political efficacy)の欠如がこれだけ顕著であれば、いくら人気アイドルが投票を呼びかけたところで、若者の投票率が低迷するのは無理もない。

むろん、そのことに対する危機感が、我が国にないわけではない。小学校では2020年度より、中学校では2021年度より実施される改訂学習指導要領において、主権者教育の充実が重要事項の一つに盛り込まれるなど、教育によって政治意識を変えていこうという動きはある。2016年に選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたことも、この動きを後押ししている。

しかしながら、その取り組みの中には首を傾げざるを得ないものもある。たとえば、実際の投票用紙と投票箱を用いた模擬投票が多くの学校で実施されているが、実際の政党を対象にした投票を行う学校はかなり少ない。けれども、若い人たちが投票に際して本当に知らなくてはいけないことは、どの政党がいかなる主張をしているか、多くの候補者の中から候補者を選ぶにはどうしたら良いか、ではないか。はっきり言ってしまえば、投票用紙を投票箱に入れる方法など誰でも分かるので、わざわざ予行練習をする必要などない。

日本と対照的に、政治的効力感が諸外国の中で最も高いスウェーデンでは、実際の政党、実際の候補者を対象とした模擬投票が、本番の総選挙前に全国の中学・高校の7割で実施されている。投票は全国的に集計され、総選挙が終了した後に発表される。その結果は、実際の国会の議席配分に反映されるものではないが、政治家たちにとっては近い将来の動向を占う重要な指標となっている。

それゆえ、生徒たちも真剣である。今年はスウェーデンの総選挙に合わせて学生たちと同国を訪れ、現地の高校で開催された政党の討論会を見学させてもらったが、高校生たちは熱気にあふれ、質問の時間には先生がもう時間切れだと止めに入るほど多くの手が上がり、こちらはただただ圧倒されるばかりであった。

かたや日本では政治的中立性を気にして、教育は現実の政治との関わりを避け続けている。1960年代の学生運動のトラウマがあるのはわかるが、それからすでに半世紀が過ぎた。その結果、いまや政治への無理解が蔓延している。大人も政治を語れず、政治問題は単純化され、選挙は人気投票化し、政党の意味はますます薄れていく。そろそろトラウマから脱却して、社会全体がこの問題に真剣に向き合う時が来ているのではないだろうか。
(国際日本学部教授)