Go Forward

新春対談 2019年もさらに前へ

リバティタワー23階・矢代操ホールにて

1881年の創立以来、時代の要請や社会の変化に対応しながら着実に歩みを進めてきた明治大学。今年は、創立150周年を見据え、2021年に実施する創立140周年記念事業に向けた準備が本格的にスタートする。2019年の抱負、明治大学の未来について柳谷孝理事長、土屋恵一郎学長が語った。

明治大学の未来を展望する出発点

牛尾 あけましておめでとうございます。本日は「2019年もさらに前へ」と題して柳谷理事長、土屋学長のお二人に年頭所感も含めてお話を伺いたいと思います。初めに、2018年を振り返っての感想をそれぞれお聞かせください。

柳谷 あけましておめでとうございます。2018年を学校法人経営の視点で振り返りますと、多摩テック跡地に関する訴訟が結審したことに代表されますように、長年にわたる懸案事項に一定の目途が付いた年となりました。その一方で、新たな施設の建設が始まった年でもありました。具体的には、海外からの受け入れ留学生と地方出身の日本人学生が、共に生活し学ぶ場として216名収容可能な国際混住寮である「明治大学グローバル・ヴィレッジ」が、本年3月の竣工に向けて建設中であります。キャンパスの内側からグローバル化が進展する一助になることを期待しています。このような取り組みが動き始めたのも、2017年度の決算で企業の純利益に相当する基本金組入前当年度収支差額が、前年度に続いて2年連続で14億円強のプラスとなったことが大きな支えとなっています。その要因としては、前理事会の最終年度に約6億円のプラスへと浮上したことを引き継いだ上で、教学のご尽力で学費改定や収容定員増が実現し学生生徒等納付金が増加したこと、志願者数が12万人を超えたことにより入学検定料収入が増加したこと、さらには職員の皆さんの努力により保有資産の見直しや水光熱費の削減などのコストコントロールが具体化したことなどが挙げられます。ところで日本の大学全体に目を向けますと、昨年は高等教育機関のガバナンスや広報対応の在り方が社会から厳しく問われた年でもありました。したがって、本学としても現在抱えている諸課題をしっかりと把握した上で、教学と法人が一体となって解決に取り組んで、明治大学の発展をけん引していきたいと思っています。

土屋 あけましておめでとうございます。昨年も国内外含めていろいろな場所を訪問してさまざまな方とお話をする機会を得ることができました。その中で私が話していたのは、今までのように各学部がカリキュラムを並べて存在する「総合大学」から、学部または海外の大学が相互に混じり合って教育・研究を進める「混合大学」へ転換する時代に入っていくのではないかということです。その象徴的な出来事の一つとして、昨年4月に設立した「明治大学自動運転社会総合研究所」があります。これは自動運転が社会の中にどう根付いていくのかについて、単に自動運転の技術だけではなく、専門職大学院法務研究科の中山幸二教授が中心に研究を行ってきた自動運転にかかわる交通事故の責任などの法律の問題、損害賠償など保険の問題、さらには地方創生につながる実装化に向けた各地域の自治体との連携などの問題を、法学部、商学部、政治経済学部など各学部の枠を超えて研究者が集まり、日本社会全体の問題として考えるというものです。もう一つは、文部科学省の「大学の世界展開力強化事業~アジア諸国等との大学間交流の枠組み強化~」に採択された「CLMVの持続可能な都市社会を支える共創的教育システムの創造」のプログラムの推進です。夏にタイ・バンコクにある「明治大学アセアンセンター」を訪問しましたが、そこでは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムに加えて、シンガポールやタイの学生と明治大学の学生が共にフィールドワークや研究を通して、課題解決にあたっている光景がありました。明大生とアセアンの学生が共に学ぶ姿を見ることができ、これこそ、明治大学の将来の姿ではないかと強く思いました。こうした取り組みを通じて世界やアジアの中で存在感がある大学になっていくことができます。まさに「混合する大学」を展望する出発の年であったと思っています。

創立140周年に向けた準備がスタート

牛尾 2019年は創立140周年に向けた重要な位置付けになると思います。2021年に迎える「創立140周年記念事業」の概要について、柳谷理事長に伺いたいと思います。

柳谷 2021年の創立140周年に向けて、昨年6月から記念事業の準備委員会を複数回開催し、11月には実行委員会をスタートさせました。この実行委員会には校友会、父母会、連合駿台会、駿台体育会の代表の方にも参加いただいておりますが、多くの皆さまのご意見を周年事業に反映させてまいりたいと考えております。なお、2021年は新たな長期ビジョンを策定する年でもありますので、これまでの長期ビジョンを総括した上で、教学からグランドデザインを示していただき、それをもとに「学校法人明治大学長期ビジョン」をまとめてまいります。したがって、140周年記念事業はその10年後の150周年をも見据えたものとなります。実行委員会の下には、記念式典・祝賀会、教学記念事業、スポーツ記念事業、広報戦略の4つの分科会を設けて、そこでの詳細な議論を踏まえて実行委員会で具体化していきます。ちなみに、和泉キャンパスの第二校舎の南側に初年次教育、教養教育、国際教育等の教学のコンセプトに基づきまして新教育棟の建設の準備を開始いたしましたが、このようなキャンパス整備も記念事業の核の1つとなってまいります。私自身も実行委員長として全力で取り組んでまいりますが、教職員、校友会、父母会、学生、地域のコミュニティの皆さまにもご理解とご支援をいただき、コンパクトで充実した周年事業を実現していきたいと考えています。

牛尾 続いて土屋学長、創立140周年に向けた教育・研究における新たなトピック、特筆すべき点などがありましたら、お聞かせください。

土屋 140周年記念事業は、建学の精神である「権利自由」「独立自治」を確認する良い機会となります。創立140周年を考えた時に一番大きいトピックとしては、昨年11月に発表した「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」があります。多様な背景を持つ学生に対して、大学が適切な教育の場、将来に向けての道を拓いていく場をどう提供できるかについて、もう一度、建学の精神に立ち返り検討を進めていきたいと思います。また、2022年3月に竣工予定の和泉キャンパスの新教育棟についても、これまでの大学教育とは違う次元での「ラーニング・コモンズ」を作りたいと考えています。学生が自ら学びながら課題解決に取り組み、教員とフラットな立場でオープンな議論ができる教育環境です。中心にあるのは学生たちが共に学び合える空間であり、一方的な教育ではなくアクティブ・ラーニングのような主体的な学びの場です。これは、これからの大学教育の模範になると思いますし、明治大学自身が今後どういう教育を行っていくかのメルクマール(指標)になると思っています。さらに、中野キャンパスの第2期工事計画や生田キャンパスの教育・研究施設の改善など、創立140周年を機に教学としても明治大学がさらに前に進むための計画を打ち立てていきたいと考えています。

牛尾 創立140周年は、創立150周年を見据えた位置付けであるというお話もありました。現在は「明治大学グランドデザイン2020」が掲げられていますが、2021年以降に描く明治大学の将来像について土屋学長にお伺いしたいと思います。

土屋 一言で言えば「Mixed World」を創るということです。例えば、海外の大学と連携したオンライン授業の実施などクロスコミュニケーションが可能な環境や、リアルだけでなくバーチャルでの授業形態を導入するなど、明治大学は変化を先導していきたいです。創立150周年を迎える2031年は、学生が常に大学にいるという状況はないでしょう。1年間は海外の大学に留学する、もしくは、4年間キャンパスにいないかもしれない。本当の意味での学生交流が加速し、世界のどこの大学にいても明治大学のキャンパスだという状況が、150周年の時には部分的に行われていると思っています。

牛尾 こうした構想を実現するためには、財政基盤の確立が重要であることは言うまでもありません。財政強化のために募金政策なども重要だと考えられますが、この点について、柳谷理事長いかがでしょうか。

柳谷 私立大学の財政基盤を支える収入は、学生生徒等納付金、補助金、寄付金の3つがその大部分を占めます。ただし、家計の負担を考慮しますと学費改定にはおのずと制約がありますし、日本の財政状況を考えますと補助金の増額も難しい状況といえます。したがって、寄付金の拡大は本学の安定的な財政基盤の確立に大変重要な要素となります。こうした中、2017年4月に校友会・父母会等のステークホルダーとの連携協力の強化を図り大学への一層の支援につながるよう「大学支援部」を新設し、募金を含めた一体的な運営を行える体制に移行しました。その結果、2017年度の寄付金は5億8900万円となり、前年度より1億円強上回ることができました。寄付者の皆さまには改めて心より御礼申し上げます。一方で他大学における同時期の寄付額に比べますと、本学の寄付拡大は依然として大きな課題の一つであるといえます。そこで、昨年4月より銀行口座から随意の月に引き落として寄付ができる「口座振替」の制度を新設し、これにより手間なく継続的にご支援いただけるようになりました。さらには「寄付者アドバイザリーボード」も新設し、昨年11月に多大なご支援をいただいております「特別紫紺賛助員」と「紫紺賛助員」の方々をお招きして本学の今後のあるべき姿について大変有益なご助言を頂戴いたしました。このような取り組みを通じて寄付者の方々とのコミュニケーションをさらに深めていきたいと思っています。また、新たな施設整備の機会に、例えば教室そのものや、椅子や机に寄付者のネームプレートやメッセージを掲載するなど「寄付の見える化」の検討も進め、募金に賛同いただける方の裾野の拡大にも取り組んでまいります。



土屋 日本私立大学連盟にて各大学がガバナンス・コードを持つべきだという議論があり、その議論の中に、学費以外の収益源を持つべきだという意見があります。生涯教育など新しい形での教育の収益を上げていくことです。明治大学にはリバティアカデミーがありますので、リカレント教育としてさらに整備して大学の収益の柱にしていくということも求められています。また、政府も未来投資会議の中で、高齢者採用や中途採用の道を拓くことが話題に挙がっていますので、このような新しいキャリアに挑戦するための大学教育が求められています。これからの社会の中でそういった方々を支えていける大学にしていきたいです。現在の18歳から22歳までを中心とした教育だけではなく、「Mixed World」としては多世代間の教育も促進する時代がきています。それを見通せる大学のみが今後生き残っていくと思っています。


結びつきを強める校友会と父母会

牛尾 明治大学は学生・教職員はもちろん、校友・父母と協同して歴史を歩んできたと言っても過言ではありません。校友・父母とのさらなる連携について伺いたいと思います。

柳谷 今から100年前の1918年12月に「大学令」という法律が公布されました。それまでの大学は「帝国大学」のみであり、本学をはじめ早慶など歴史ある私学は専門学校の位置付けでしたので、この大学令によって続々と大学への昇格を目指しました。ただ、そのための条件として「大学が永続的に運営できるよう多額の基本財産を用意して国に供託すること」が求められたのです。その基本金は、当時の50万円であり、さらに設置する学部1つにつき10万円を加算するというものでした。そのような厳しい条件に本学が苦慮している中、当時の校友の方々が立ち上がって寄付金集めに奔走し、晴れて1920年4月に大学へと昇格できたのです。以来、明治大学の歴史は校友の皆さまと共に歩んできたものといえます。向殿政男校友会長も常日頃「明治はひとつ」とおっしゃっています。実はハーバード大学で初めての女性学長になったドリュー・ファウスト氏も「お互いを比較するのではない、つながるのだ」と言い続けていました。そういう意味では、卒業生同士が結びつくことで絆を深め、母校への支援と人類の平和のために貢献できる後輩たちを世に送り出そうという考え方は、世界に共通するものでありましょう。私も各地の校友会支部に伺っておりますが、今後とも校友会の国内外56支部、223の地域支部、海外で20の紫紺会との連携を一層深めていきたいと思っています。ところで、昨年の第21回ホームカミングデーには父母会役員であった方々が150人も参加してくださいました。私どもはご父母の皆さまから「子どもを明治大学に入学させて良かった」と言っていただける時が一番幸せを感じる瞬間です。“Student First”の教学の方針を法人としてもしっかり支え続けますとともに、ご父母の皆さまにとりましても明治大学が「第二の母校」となることを切に願っています。



土屋 昨年は、東北や神奈川、大阪など各地域の父母会行事に参加させていただき交流を深めることができました。また、韓国や新たに設立された中国の父母会にも出席しましたし、今年は現在計画中のマレーシア父母会設立に立ち会う予定です。明治大学には約1600人の留学生が在籍していますので、アジアを中心とした父母会の絆もますます強まっていくでしょう。ご父母の皆さまには自分が卒業した大学ではないにもかかわらず、第二の母校としてスポーツ応援やイベントなどに非常に熱心に参加していただいていますので、私はこのことを大事にしていきたいと思っています。また、校友会についても、北海道をはじめいくつかの地域を訪問させていただきました。最近は地方から明治大学に入学する学生が少なくなっているので、各地域の校友会が今後継続していけるのかということを不安に思っています。明治大学の多様性を保ち、全国の校友会の基盤を安定化させるためにも、地方の学生が来てくれるための方策を取っていきたいです。その意味でも各地域の校友子弟の推薦入試などを提案していきたいと思っています。

大きな飛躍に向けてスタートする年

牛尾 最後に改めて、2019年の抱負、意気込みをお聞かせください。

土屋 2019年は一つ大きな課題があります。それは、教養系新学部の設置です。これから学部長会などに提案することになりますが、これは日本の大学の大きな転換を意味しています。これまでの大学教育はどちらかというと専門教育に比重が置かれていましたが、基礎教養の重要性を再確認し、本来の大学の姿に戻していくのです。企業側からも教養教育、リベラルアーツの重要性が挙げられており、社会からの要請に応えるという意味でもあります。総合大学から各専門的知識が結び合う教育を実践する混合大学へと転換するキーストーンとしても、ぜひとも教養系新学部を作りたいと思っています。そうすることにより、和泉新教育棟や明治大学グローバル・ヴィレッジなども含めて、大学の活力をさらに倍加することができると考えています。

柳谷 「平成」という年号も変わり、新しい時代が幕開けする年となります。明治大学も「世界に開かれた大学」そして「世界に発信する大学」として未来に輝き続けていく上で、大きな飛躍に向けてスタートする年にしたいと考えております。その際「世界の中の日本」という視点が一段と重要になってきます。昨年末の中央教育審議会答申では、2040年の大学進学者数が現在より20%減の51万人となり、高等教育機関を適正な規模にしていく必要があると指摘しています。しかし世界に目を向けますと、国連の統計では現在76億人と言われる世界人口が2050年には98億人に達すると推計され、世界の高等教育マーケットは拡大基調にあります。これにより高等教育のボーダレス化が一層進み、大学間競争はますます激しくなりますので、日本国内はもちろん世界における大学ランキングもさらに意識していかなければなりません。本学ではアジアのトップ100を目指すという方向性を示しておりますので、法人としてもその実現に向けて一体となって取り組んでいきたいと思っています。一方で足元を見ますと、本学には築50年を経過した建物が13棟もあり、教育研究環境の整備がより一層重要になってくる中で老朽化した施設の建て替えや修繕も必要となります。資金が短期間に集中して財政面を圧迫しないように留意しつつ、大学全体を俯瞰しながら優先順位を決めて建設計画を策定していかなければなりません。その点についても法人と教学でこれからも相互によくコミュニケーションをとっていきたいと考えています。

牛尾 2019年もさらに飛躍できるよう、法人と教学が手を携えながら取り組んでいければと思っております。本日はありがとうございました。



理事長 柳谷 孝
1975年明治大学商学部卒業。1975年野村證券㈱入社。1997年同社取締役、2006年同社副社長、2008年同社副会長など歴任。昭和産業㈱社外取締役などを務める。2016年5月より現職

学長 土屋 恵一郎
1970年明治大学法学部卒業、1977年同大学院博士課程単位取得退学。1978年明治大学法学部助手、1993年同教授。法学部長、教務担当常勤理事など歴任。2016年4月より現職。専門分野「法哲学、近代イギリス思想史」
進行
副学長(広報担当)  牛尾 奈緒美

フジテレビアナウンサーを寿退職した後、子育てをしながら大学院へ。1998年入職。2009年情報コミュニケーション学部教授。2016年4月より現職。研究テーマは「企業に働く人々がジェンダーの枠を超えて活躍できる場・方策を考案」