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昨今温泉好きの若者は増えているようだが、銭湯好きの若者というのはあまり聞かない。

そもそも湯船に浸からない者もいるというから驚く。私にとって銭湯から呑み屋に繰り出す銭湯呑みは極楽である。折角なら、神社仏閣を思わせる破風の屋根を載せた「社寺風」破風造りの銭湯がよい。関東大震災からの復興の過程で流行し、宮大工が庶民のために腕を振るったというこの味わい深い建築は東京周辺によく見られ、大阪や神戸では洋館風の構えが多いという。各地の銭湯にも文化が色濃い。ただし、昭和40年代には全国で1万7千軒あったという銭湯も、今や2千6百軒にまで激減している。破風造りの銭湯は中でも少ない。

ルース・ベネディクトは『菊と刀』の中で、「日本人のささやかな肉体的快楽のひとつは温浴である。彼らが毎日入浴するのは、清潔のためでもあるが、そのほかに、他の国々の入浴の習慣には類例を見いだすことの困難な、一種の受動的な耽溺の芸術としての価値をおいている」とまで述べている。寒い夜には、銭湯で耽溺の芸術に浸るのもまた一興であろう。