Go Forward

本棚『学歴と格差の経営史—新しい歴史像を求めて—』若林幸男 編著 日本経済評論社、7,300円+税



「学歴」は「学びの履歴」と読めるので「学習歴」や到達度を示す「学力歴」とも解釈できるが、一般的には学校教育制度上の最終の学びの場である「学校レベル歴」や「学校歴」(本書では同一レベルの学校間格差という意味で使う)として捉えられる。本書は、この意味での「学歴」が人の採用と昇進・昇給の格差を生んできたという通説を、多くの新史料の多角的な分析で再検証した研究書である。

第一部では、三井物産の人事制度史研究で実績のある編者の若林幸男氏と、大島久幸、木山実、上原克仁の各氏が同社の「特別職員録」を吟味し、人事システムと「学歴」の関連を追っている。第二部では、同社の人材採用と教育システムの変遷を山藤竜太郎氏が再検討し、藤村聡氏が同社の処罰や規律と「学歴」・職位との関連を検証している。第三部では、菅山真次氏と市原博氏がメーカーの賃金管理や「学歴身分」について論じている。

実質の「学力歴」が問われる今日、従来の「学歴」基準を再考するうえでも必読の書である。

佐々木 聡・経営学部教授
(編著者は商学部教授)