Go Forward

論壇「企業遺伝子」と組織のサステナビリティ

専門職大学院長 吉村 孝司

組織が継続事業体たるゴーイング・コンサーン(going concern)として存在し続けるためには取り巻く環境の変化に遅滞することなく適応し、新たな挑戦としてのイノベーション(innovation:変革)を絶えず具現することが不可欠であり、同時に自らのあり方としての経営がなによりも健全であることが要件とされる。しかしながら、企業や官庁をはじめとする組織における不正や不祥事は絶えることはない。また、イノベーションの具現を可能とする企業が存在する一方で、経営環境の変化のなかで淘汰される企業が存在し、まさに栄枯盛衰が繰り返されている。

こうした一種のメカニズムについて、筆者は「企業遺伝子」という視点から考察を続けてきた。「企業遺伝子」とは、「目に見えない情報として組織に埋め込まれた企業文化である経営理念や経営者が作り上げた独自の価値観をその“会社らしさ”として醸成し、従業員の行動指針や価値基準となるもの」であり、その本質は、「企業哲学・企業価値・行動指針・企業文化・社風といった価値基準=情報単位」に存在すると考えている。また、わが国企業を対象とした調査からは、二種類の企業遺伝子の存在を確認した。一つは主に上場会社に見られる遺伝子であり、もう一つは創業百年を超える老舗企業に見られる遺伝子である。前者は「企業遺伝子として生成および浸透過程にあるものであり、その代替(組み換え)可能性を有するため、革新的挑戦や外部からの意見を取り込む余地を有し、経営環境の変化に対して最適な遺伝子として強化・継承されうる遺伝子」であるのに対し、後者は「すでに継承過程にある企業遺伝子であり、経営環境との関係性において長期間を通して生成、継承されてきた結果、もはや代替(組み換え)不可能なレベルまでに昇華された遺伝子」を意味し、これらは企業に限定されることなく、すべての組織に存在しうる遺伝子であるともいえる。

組織が保有する遺伝子が当該組織の構成員の行動をコントロールし、善くも悪くも“自分たちのやり方(way)”として経営行動なり組織行動に映される結果が組織経営の良し悪しの違いとなって表れるのではないだろうか。

時代はいままでの「継続すること」からさらに深化させた考え方として「持続可能性(sustainability)」の大切さを説き始めた。それは、環境・社会・経済の観点から世の中を持続可能にしていくことを意味するものであり、社会共生体としての大学も自らの持続を可能にするための遺伝子を生成し、継承していくことが不可欠であることは言うまでもない。

(会計専門職研究科教授)