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本棚『日本政治史研究の諸相—— 総力戦・植民地・政軍関係』 纐纈 厚 著  明治大学出版会、5,200円+税



政軍関係・軍事史研究の第一人者による、全体で3部15章構成の大著である。政治学の一分野としての「政治史」を明確に打ち出し、幅広い分野へ目配りをした長年にわたる研究をもとに、骨太かつ詳細な実証的分析がなされている。現実政治にも積極的に関与している著者の独自な視座が際立つ。

以下の例だけでもそれが伺える。一般的には1940年前後を「総力戦体制」の起点と考えているが、(1)第1次世界大戦時から形成が始まったとの主張のもと、(2)第1次大戦と第2次大戦を一体のものとして「総力戦大戦」と呼ぶ。(3)当該時期の官僚制を「アドミニストクラシー」と捉える。(4)近年では「アジア・太平洋戦争」と表記されることが多いが、アジアでの戦争と太平洋地域での戦争が本質的に繋がっているとして「アジア太平洋戦争」と表記すべきとの主張などである。

同じ視座は、日本の植民地支配と戦後の対応に関する分析にも見られ、賛否は別として、無視できない有力な論が展開されている。近現代政治史を真に理解するための必読書である。
小西 德應・政治経済学部教授
(著者は研究・知財戦略機構特任教授)