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祝辞 —未来の担い手となる皆さんへ 理事長 柳谷 孝

卒業ならびに修了を迎えられる皆さん、このたびは誠におめでとうございます。明治大学で研鑽に励まれて課程を修め、学位を取得されたことに対し、心からお祝いを申し上げます。また、ご家族の皆様をはじめ、ご列席の方々に心よりお慶びを申し上げますとともに、本学へ賜りました多大なるご理解とご支援に対し、厚く御礼を申し上げます。皆さんは、「権利自由・独立自治」の建学の精神の下、多くの学びや出会いを経験したことでしょう。長い歴史と伝統を有する本学の卒業生であることの誇りを胸に、これからの人生を堂々と歩んでいってください。

ところで、私たちは今、後の歴史に問われるであろう大きな転換期に差し掛かっています。現下の世界情勢に目を向けますと、覇権争いが激化する米中関係や英国のEU離脱問題等により地政学的リスクが高まり、世界の先行きに不透明感が増しています。また、世界人口の半数を擁するアジアでは、人々の生み出すダイナミズムが更なる経済成長をもたらし、世界全体のGDPに占めるアジアの割合が現在の30%台から2050年には50%を超えて「アジアの世紀」が到来すると言われます。

他方、私たちの日常に目を向けますと、近年目覚ましい発達を遂げているAI(人工知能)にも注目が集まっています。AIが人間の能力を超え、人間の能力を超えたAI自身が、更に加速度的に高度なAIをつくり、社会がそれまでとは全く異なる不連続で想像できない変化を遂げる日、すなわち「シンギュラリティ」が到来するという一つの未来展望も示されています。

このような未来予測が困難な時代においては、過去の成功体験が瞬時に時代遅れとなるDisruption(破壊)の波が押し寄せることにより、私たちのこれまでの常識が通用せず、不確かな状況下で自らの行動を選択してゆく場面が一段と増えてゆくことでしょう。

そうした時代へと向かう皆さんに養い続けてほしいもの、それは「既成概念にとらわれない目」であります。これに関して、20世紀を代表する世界的作家であるマルセル・プルーストは「人生」を「旅」になぞらえて、次の言葉を残しています。

“The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes.”
(真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ)

私たちは、無意識のうちにこれまでの経験や価値観の延長線上で物事と向き合っていますが、未来の担い手である皆さんには「新しい目」、すなわち先入観やそれまでの常識にとらわれず「本質を見極める力」を高め続けてほしいのです。そのためには、社会で起きる様々な事象から主体性をもって自ら「考える材料」を発見し、そして「自分で考え抜く力」を磨き続けることが、何より大切であります。「個」を強くする、という本学が掲げる理念の神髄も、まさにそこにあるといえましょう。

さて、この4月からは、皆さんの多くが新社会人として新たな世界へと羽ばたきます。新社会人とは、新しく社会をつくる人のことです。社会は一人ひとりでできています。その一人ひとりが踏み出すことで、初めて社会は動き出します。そして一人ひとりが新しい目を持ち、新しい自分になることで、新しい社会ができてゆくのです。これからも、不屈の明治魂を胸に失敗を恐れず挑戦し続け、未来を創造してゆく気概と勇気をもって、時代を切り拓いていってください。そして、地球市民の一員として、国や人種の違いを超えて協調できる世界を希求するとともに、人類と地球環境との調和した未来を創造することに、皆さん一人ひとりが貢献してほしいと願っています。

本日の新しい門出に際し、皆さんの前途に幸多きことを心より祈念いたし、祝辞といたします。
【卒業式次第より転載】