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働き方改革関連法による改正労基法等の施行を受けて  副学長(教員人事・法務担当)青野 覚

2018年6月に成立した働き方改革関連法による労基法等の労働時間及び休息に関する諸制度の改正が、本年4月に、一部の規定を除き、施行されました。この改正は労働時間制度に関する労基法史上最も重要な改正と位置付けられ、今後の働き方・働かせ方に重大な影響を持つものです。

この法改正は、わが国における長時間労働の現状から生ずる過労死・過労自殺の増加などの深刻な社会問題の解決と1980年代以降就労者総数の過半数を超えるまでに増加したホワイトカラーの生産性向上のための柔軟な労働時間制度を可能にするという、二つの異質な政策意図によるものです。その改正手続は、官邸主導による「規制改革会議」などの各種会議で基本方針が定まり、公労使構成の労働政策審議会が具体的法案を策定する異例のものでした。

長時間労働対策のための主要な改正の第一は、36協定で定める残業時間を限定する「限度時間制度」と「絶対的上限時間制度」の創設です。「限度時間制度」は36協定で週40時間の法定労働時間の限度を超えて労働させることができる時間を定める際の限度を具体的に定めたもので、この限度を超えた時間を定めた36協定は無効となり、それに基づく残業は違法残業となります。「絶対的上限時間制度」は月100時間未満・2カ月から6カ月間で平均月80時間以内という上限時間を超えて実際に残業・休日労働させることを禁止するもので、違反には刑罰が科されます。第二に、終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保するための「勤務間インターバル制度」の創設が事業主の努力義務とされました。第三は、年休消化率が50%程度で低迷する現状を打開するため、年休が10日以上付与される労働者に対して、その内5日については使用者が取得時期を指定して付与することを義務づけ、同義務の違反には労働者一人当たり最大30万円の罰金を科す「年休取得義務制度」の創設です。

ホワイトカラー労働時間制度に関する最重要の改正は、「高度プロフェッショナル制」の創設です。これは、一部のホワイトカラーを対象に労基法上の労働時間規制を全面的に適用除外することを本質とし、法改正への2回の挫折を経て実現した政財界の悲願の制度です。この要件は施行規則で定められ、対象労働者は業務・年収などで限定され、導入・実施の要件は厳格に定められています。しかし、これが有効に適用されると、対象労働者が1日、1週に何時間働いても、休憩をとらなくとも、36協定を届出なくとも使用者は罰せられず、深夜に働いても割増賃金の支払義務は発生しません。適用ホワイトカラーの命と健康への悪影響が予想されるばかりでなく、西欧で180年前に構想された「法律による労働時間規制」の制度的意義を損なう危険が内包されています。

この施行を前に、使用者は法令遵守が「グッド・カンパニー」への道であることを肝に銘ずべきですし、労働者とその予備軍の学生諸君は「年間3000時間を超える労働は死に直結する」事実を知り、正確な労働法の知識を得て、働きすぎと働かされすぎを再考する必要があります。
(法学部教授)