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本棚 文化と営利 —比較経営文化論 安部 悦生 著(有斐閣 4,000円+税)



経営史の包括的な研究書である。内容は深く、かつ刺激的であり、概説書には属さない。経営史の分野では、個別の企業や産業を対象とした事例研究が多く、経営風土や国際競争力や外国資本などの大テーマを扱う文献でも何人かの個別研究を一冊にまとめた共著が多い。しかし、本書はそのいずれとも違う。わが国の経営史学会をリードしてきた著者が「経営文化の国際比較」を縦横に論じた書き下ろしの単著である。

全編470頁に及ぶ大著ではあるが、文章は平易で読みやすく、資本主義のあり方を規定するものとして「営利と文化の共進化」に注目する本書の意図は、広範な経済史や経営史の研究成果を駆使することによって見事に達成されている。

著者の勧めに従って、イギリス、アメリカ、中国、イタリア、ドイツ、日本を対象とした第Ⅱ部「経営文化の国際比較」から読み進めば、多くの読者は著者の豊富な知識と鋭い分析に魅せられて、いささか「理屈っぽい」第Ⅰ部「経営文化の理論的解明」に挑戦する準備もおのずとできるであろう。

横井 勝彦・商学部教授
(著者は経営学部教授)