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本棚 評伝 孫基禎—スポーツは国境を越えて心をつなぐ— 寺島 善一 著(社会評論社 1,400円+税)



五輪の華と言われるマラソンにおいて、日本人選手で最初に金メダルを獲得したのが、2000年のシドニー五輪に出場した高橋尚子氏であることは知っていても、日本による植民地支配下の朝鮮半島に生まれ、1936年に日本代表としてベルリン五輪に出場した孫基禎氏が金メダルを獲得したことを知っている人は少ないだろう。そして、孫氏が明大OBであることを知っている明大の学生や教職員はどれだけいるだろう。

本書は、明大在任中に孫氏と親しく交流した筆者による評伝であり、「第一部 孫基禎の歩んだ道」と「第二部 蘇る孫基禎の人とスポーツ哲学」からなる。本書は、孫氏の波乱に満ちた人生を振り返るとともに、五輪精神にかかわる幾つかのエピソードを紹介している。その中で、本書のメッセージを最もストレートに伝えているのは、2018年の平昌五輪のスピードスケート女子500メートルで競い合った小平菜緒選手と李相花選手の友情だろう。

本書は、東京五輪まで500日を切った今、そして戦後最悪の日韓関係にあると言われる今こそ一読に値する。


山脇 啓造・国際日本学部教授
(著者は名誉教授)