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本棚 基地と聖地の沖縄史—— フェンスの内で祈る人びと 山内 健治 著(吉川弘文館 2,500円+税)



本著で著者は、沖縄アメリカ軍用地接収に伴う強制移転を経験した集落における信仰実践に焦点を当てる。住民の意思とは関係なしに居住空間が変えられてしまう強制移転において、信仰のかたちはどのようにあり続けるのか。また、農業などの経済活動をはじめとした様々な日常生活と結びついている信仰が、どのように維持され、また、変化していくのか。読谷村の複数の集落で取り組んできた長年の調査を基礎に著者が提示するのは、強制移転に起因する信仰実践の変容のあり方が多様であることである。

同時に、人類学的な調査手法の中でも古典的ともいわれる祭礼調査を基軸に強制移転の研究をすることにより著者が提示するのは、沖縄の基地問題が必ずしも沖縄県の外に住む私たちにとって遠くにあるものではないということである。土地と信仰実践に関する問題は、米軍基地問題だけでなく、本土でも開発や公共工事などに伴う集落移転の際に住民が直面する問題でもある。本著は、強制移転の現状を現場の視点から学べる貴重な一冊である。

山田 亨・文学部准教授(著者は政治経済学部教授)