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本棚 戦前期アジア留学生と明治大学 —明治大学人文科学研究所叢書 高田 幸男 編著 (東方書店、3,200円+税)



戦前から今日にかけてアジア各地から多くの若者が日本に留学した。しかし、中国以外の国や地域の日本留学についてまだあまり研究されてこなかった。

本書はそのような問題意識を念頭に編まれたもので、戦前の植民地化された国や地域も視野に入れ、中国大陸のほか、日本統治下の台湾や朝鮮半島の日本留学なども取り上げられている。

明治大学とのかかわりに着目するのは本書のもう一つの狙いである。総論ではアジアの留学生という大きな見取り図の中でこの問題を捉えているのに対し、経緯学堂に焦点を絞った論考は本学の留学生教育を扱っている。中国人留学生についての三篇は留学経験が中国社会にどのように饋還したか、あるいは都市空間との共鳴、または文芸思潮の水位が及ぼした影響について分析したものである。明治大学などに留学した人たちが弁護士になり、台湾近代の法律環境の整備に貢献したという考察も興味を惹く。

どの論考も緻密な資料調査と手堅い学問的な手法を踏まえたもので、これまで知られていないことが数おおく解き明かされている。アジア留学生について研究はまだ未解明のことが多く、本書はその第一弾に過ぎない。今後のさらなる展開を期待したい。

張 競・国際日本学部教授(編著者は文学部教授)