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本棚 ホメオパシーとヴィクトリア朝 イギリスの医学— 科学と非科学の境界 黒﨑 周一 著(刀水書房、5,500円+税)



本書は科学的医学の形成過程にあった19世紀イギリスにおいて、科学と非科学との境界線がどこに引かれたかを、ホメオパシーという新医学理論をめぐる論争に着目し、考察した一冊である。「正統」医学を標榜する多数派の医師はホメオパシーを信奉する医師を「異端」で非科学的と断じ、排斥しようとしたが自由放任主義の時代にあって挫折した。薬剤師は商魂の赴くまま無規制にホメオパシー薬・商品を売り出せたし、「異端」医の排除は、自由競争による医学の発展を妨げると考えられたからである。こうした状況下で、科学と非科学を分かつもう1つの境界線-「寛容」と「不寛容」-が生み出された。「正統」と「異端」の境界線に固執する不寛容さは非科学的な態度と批判され、科学としての医学は異なる意見に対して寛容であるべきとされたのである。

概要は以上であるが、歴史研究の要は細部に宿る。その点で本書は、ディズレイリの治療を始め興味深い事例・言説に満ちた好著である。ぜひ手に取ってそれらの魅力を味わってほしい。

菅原 未宇・文学部兼任講師
(著者は文学部助教)