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本棚 黙って踊れ、エレクトラ—ホフマンスタールの言語危機と日本 関根 裕子 著(春風社、4,200円+税)



年来の研究の成果の結実した一冊の、眼目は掉尾を飾る第五章、全体の出発点であり目指す頂ともなっている。そこに至る長い登攀の路は、劈頭から、裾野を隈なく把握し尽くさんばかりの遠大な課題の数々を開陳して、読者にも共に前途洋々たる希望を抱かせるに足る。フランクフルトのホフマンスタール資料室での貴重な一次資料との出会い、即ち、我が邦での『エレクトラ』上演を企てる演劇人松居松葉と、ほかならぬ森鷗外からの、ホフマンスタール宛書簡を発見したことを端緒に、十余年を経て成った博士論文に基く本書がここに上梓された。長らくこの作家に関わり、また先ずは音楽を修めて後に文学に転じた筆者ならではの、また近年はこの研究主題の為もあってか舞踏に就いてもなお実践を含めて親しく研鑽を積んだことが幸いして、その輻輳混淆する芸術分野に跨るこのギリシャ翻案劇の置かれた境界的な布置をよく捉え得たと感得される。比較文化研究の粋をなす本書がドイツ語でも上梓され発信されることを願って已まない。

須永恒雄・法学部教授
(著者は法学部兼任講師)