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杉原研究特別教授が海外で講演

明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)の杉原厚吉研究・知財戦略機構研究特別教授は、8月、アメリカ合衆国で2件の招待講演と錯視立体作品の展示を行った。ここに特別寄稿として、杉原研究特別教授による報告記事を掲載する。

米国でのプロマジシャンの大会などでの立体錯視の披露 杉原 厚吉(研究・知財戦略機構研究特別教授)

国立数学博物館での講演 マジック・ライブ会議での講演(MAGIC Live! Kari Hendler)

今年の8月前半にアメリカ合衆国へ出張し、2件の招待講演と錯視立体作品の展示を行ってきた。

その一つは8月4日から7日までラスベガスで行われたMAGIC Live Convention(マジック・ライブ会議)で、会議実行委員会代表のStan Allen氏によると、プロマジシャンとマジック関連業者約1700人が参加するこの分野の全米最大の会議とのことであった。そこで私が今まで開発してきた9種類の不可能立体を披露した。マジックの基本技術は、観客の注意を別の所に向けている間にトリックを実行するミスディレクションであるといわれるが、立体錯視はその立体を注目していても起こるものなので、ミスディレクション無しで実行できるマジックとして使えることを講演では強調した。約600席の講演会場で同じ講演を午前と午後の2回行ったが、2回とも講演の後にスタンディングオベーションを受けた。これは私の人生で初めてのことである。講演の翌日の夕方には、特別会場一部屋を使って変身立体12点を展示する機会もいただいた。ここでもたくさんの質問を受け、多くの方に興味を持っていただけたことを実感できた。

この会議は主催者が選んだ招待講演と招待実演だけで構成されているもので、プロマジシャンが自分の腕を磨く勉強の場という性格を持っている。昼間はマジックの効果的な演出方法、新しいマジックの種の解説、マジックの種の権利確保の方法などの講演が続き、夜は毎晩マジックショーが繰り広げられた。それらを堪能することもでき、楽しく充実した4日間であった。

次にニューヨークへ移動し、マディソン・スクエアにある国立数学博物館(MoMath)で毎月行われている市民講演会の一環として講演を行った。主催者が決めたThe Amazing Work of Kokichi Sugiharaというタイトルで講演会のアナウンスがされていたが、定員170名が満席となった会場で、今度は不可能立体を紹介すると共にその背景にある数理構造も解説した。会場には変身立体5点も展示し、講演の後に実物も見てもらった。90分の講演の最後には質問の時間も設けられていたが、講演が終わった後もさらにたくさんの質問を受け、40分ぐらい質問を受けたところで、主催者がディナーに行くからと言って他の質問を断るという状況であった。

どちらの講演でも、会場で不可能立体の実物を展示する機会をいただいた。ビデオカメラなどで撮影した立体をスクリーンに投影して見る場合は、錯視は強く起る。これは、カメラのレンズ中心が一つしか無いので、片方の目だけで立体を見ることに相当し、両眼立体視が効かないからである。私の不可能立体の中には、両目で直接見ても錯視が起こるものがあるが、この錯視の強さは実物を見ないと体験していただけない。その意味で実物展示も含めた講演の機会をいただけたことは、YouTubeなどで見て知っていたという方にも新たな驚きを与えることができた。