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本棚 贈与論—資本主義を突き抜けるための哲学 岩野 卓司 著(青土社、2,800円+税)



今時なぜ「贈与論」と訝しむ向きもあるかもしれない。だが、本書を読めば、今こそまさに「贈与論」が必要であることに納得するであろう。

著者はまずモースの古典的著作『贈与論』を平易に解説したうえで、レヴィ・ストロース、バタイユ、シモーヌ・ヴェイユ、デリダ、マリオンといったフランス現代思想家の独自な「贈与」の考え方を紹介し、「贈与」の重要性について思索をめぐらせている。そして「資本主義を突き抜ける」鍵が「贈与」にあることを説いている。それは、資本主義に回収されてしまう通常の相互的な「贈与交換」ではなく、一方的な「返礼なき贈与」だと言う。ボランティア、臓器移植、ベーシック・インカムなどは現代社会の「贈与の新しいかたち」=「返礼なき贈与」であり、そこに著者は資本主義を変質させる契機を見出している。未来を生きる若者たちに是非とも読んでもらいたい本である。(なお、本書は、本学法学部出身の編集者赤羽健氏により制作されたものであることを付記しておく)。
田島正行・法学部教授(著者も法学部教授)