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本棚 武器貿易条約 — 人間・国家主権・武器移転規制 榎本 珠良 著(晃洋書房、3,800円+税)



2013年、国連で武器貿易条約(ATT)が採択された。本書は、ATTに焦点を当てた初の日本語の図書である。

本書の筆者は、2003年から15年までATTを求める国際キャンペーンの日本における調査・政策を担い、その後もATT締約国会議プロセスの議論を記録している。こうした筆者の経歴にもかかわらず、本書はATTを支持し推進する内容ではない。むしろ本書は、ATTを推進する人々が自明視する思考を問い、その自明性を覆そうとする。

本書は、主権国家システム形成後の国際社会において、武器移転規制が常に議論されつつも、提唱された規制内容が大きく変化してきた点に着目する。そして、各時代の武器移転規制論が前提とみなした「事実」と、その事実認識を基礎づけた人間像や国家主権概念を解きほぐそうとする。

本書には、ATT交渉中の記録をはじめ、当事者以外には入手しにくいデータも盛り込まれている。この条約を支持する人も批判する人も、まずは手にとってみてはいかがだろうか。
水野勝之・商学部教授
(著者は研究・知財戦略機構特任教授)