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「災い転じて…」

副学長(教務担当) 千田 亮吉

以前から話題にはなっていた。「長期海外遠征をする体育会の学生のために、授業の動画を整備できないか」「ユビキタスはe-ラーニングをサポートする用意がある」「いつでもどこでも学べるメディア授業こそこれからの大学の目指す方向」。しかし、いくつかの特定の講座などを除いて、本学では具体的に話は進んでいなかった。

コロナウイルス感染症の拡大で状況は一変する。他の多くの大学と同様に、本学も本年春学期中は原則オンライン授業を実施することを決め、約1万6000の授業が一斉に対面授業からオンライン授業に切り替えられた。当初発生したシステムの問題には迅速な対応が行われ、6月半ば時点で授業は順調に行われている。

一口にオンライン授業といってもいくつかの形態がある。本学ではラーニングマネージメントシステムOh-o! Meiji を使った「資料課題提示型」「オンデマンド型」、Zoomを使った「リアルタイム配信型」の3つに分類した。このうち、最も対面授業との差が小さいのは「リアルタイム配信型」で、他の二つはこれまで行ってきた教室での対面授業とは本質的に異なる部分がある。

現在、私自身が二つの授業で採用している「オンデマンド型」でその差を考えてみたい。まず、対面授業に比べて一回の授業で伝える内容が増えた。準備に時間がかかるものの、知識を伝える効率という点では明らかに対面授業を上回る。言い換えれば、これまでの対面授業には如何に無駄が多かったかということになるが、私はその無駄な部分こそが大学の授業に不可欠なのではないかと感じている。言い換えれば、効率が良く無駄がないことがオンライン授業の大きな欠点となりかねない。対面授業であれば、話をしながら学生の反応をみて、説明を別の方法で繰り返したり、授業とは直接関係ないが学生に伝えたい話題に触れてみたりといったことができる。学生とのコミュニケーションはオンライン授業でもある程度は可能であるが、対面授業の臨場感とは質的に異なっている。

学生側もそのことは感じているようで、アンケート調査では「教員とのコミュニケーション」を求める意見が多数寄せられている。特に、大学での対面授業の経験がない一年生の戸惑いは大きい。これまで、受験勉強という効率的な学習を強いられてきた一年生は、その延長線上にあるオンライン授業にはない何かを求めている。一方、コロナウイルス感染症次第では、オンライン授業の長期化は避けられないかもしれない。災い転じて福となすためには、オンライン授業の中に対面授業が持つ無駄を取り入れ、学生の期待に応えることが不可欠であると思う。
(商学部教授)