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「超スマート社会を拓く産学連携」

副学長(研究担当) 乾 孝治

バブル崩壊が始まった1990年以降、節目の年毎に「失われた〇〇年」と繰り返し言及されてきた通り、日本は長期間にわたって持続的低成長から抜け出せずに来たが、安倍首相は第2次政権発足後に「日銀バズーカ砲」を炸裂させ、「3本の矢」によって低成長からの脱却を目指した。その成否については首相が辞任した今、ファクトにもとづく評価が各所で示されているが、未だ「失われた時代」からの完全脱却は果たせていないと総括できよう。とはいえ、ミクロに目を転じれば、コロナ禍で不確実性が増しているものの、企業は一時期よりも利益率を高め、(善し悪しは別として)十分な内部留保を確保し、新しい成長に向けた投資の準備を整えている。

さて、安倍首相が自ら議長を務めた未来投資会議は、成長戦略の重点課題・施策を検討し、2017年以降、毎年初夏の頃に報告書を公表している。その中に繰り返し登場するキーワードが「Society 5.0」であるが、これは、狩猟(1.0)、農耕(2.0)、工業(3.0)、情報(4.0)と発展してきた人類社会の延長線上に、目指すべき「超スマート社会(5.0)」を位置づけたものである。超スマート社会とは「サイバー空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(内閣府HPより引用)」であるが、要するに、ロボットや人工知能、ビックデータ(データサイエンス)などを駆使して実現する誰もが快適に暮らせる社会である。

2019年の報告書では、Society 5.0に求められる人づくり革命の推進として、大学教育における産学連携の推進が言及されている。前述のとおり超スマート社会の技術的基盤はAIやデータサイエンスに負うところが大きく、データサイエンスがビッグデータに価値を見いだす科学であることを思い出せば、新たな資源「21世紀の石油」と呼ばれるビックデータの源泉であるビジネスと直結する産学連携は必至であろう。

また、大学における研究に関しては、多様な研究分野それぞれに事情が異なるが、AI・データサイエンス分野においては産学共同研究を効果的に進めるために、クロスアポイントメント(人的交流制度)の導入や、それを後押しする多角的な研究業績評価・インセンティブの導入を推進することが重要な施策となろう。

産学連携により、社会変化に対応した教育プログラムの開発や研究成果の社会還元が進展し、大学研究者が「失われた時代」と決別するための水先案内人として活躍することを期待したい。
(総合数理学部教授)