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本棚 「文学の認知空間 —— 近代日本文学と東京」 佐藤 義雄 著(蒼丘書林、3,200円+税)



著者3冊目の単著となる本書は、第1作『文学の風景 都市の風景』の続編的性格を持つが、本書では「認知」という概念によって、文学作品の新たな空間的意味の解釈が試みられている。作家の生きた体験や感性によって切り取られた作品空間を、歴史的・文化的コンテクストと突き合わせることで、従来の作家論とは異なる新たな意味の「認知」を見出す試みが、具体的な作品分析によって提示される。この「認知空間」という視点から見えてくる文学的な「地図」は、決して正確な場の再現ではなく、書き手の主観による「間違い」や「勝手さ」によって再創造された新たな〈風景〉である。そして、このような現実の風景との断層にこそ、文学が生まれる貴重な磁場があるという。歩き、読むことで読者の想像力もまた更新される。決して膠着しない文学テキスト読解の原理的な〈楽しみ〉を本書は提示している。

20年に渡る現地踏破と文献渉猟の成果であると同時に、佐藤都市文学論の集大成とも言える一冊である。
松下浩幸・農学部教授(著者は名誉教授)