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本棚 「共振する異界 遠野物語と異類たち」 永藤 靖 著(三弥井書店、2,500円+税)



柳田国男著『遠野物語』というテキストは、次のようなものだと著者は言う。

日常の中に絶えずあの世(非日常)があって、
それらが絶えず滲みだしてくると。

遠野の人々にとって、あの世はこの世に隣接するごく親しい処とする文脈に出てくる。『遠野物語』の成立や意味、その存在の核心を鋭く剔り出した一文と言ってよい。タイトルの「異界」は著者の主題であり、分析用語でもある。本書は「身近な場所に異界が立ち現れ」るリアリティーにこそ、『遠野物語』に書かれた説話の意味があることを解き明かしている。その深く、新たな読みは時に読者を戦慄せしめる。人間とは何かということを書いた作品とさえ言い得る。実証的研究の限界をやすやすと乗り越えて、著者は誰も書かなかった『遠野物語』論を示した。その奥行きを読み取るのは私たち読者に託されている。

本書は2019年に逝去した著者の遺稿集である。既発表、書き下ろし原稿をうまく構成し、一書となしたのは教え子の堂野前彰子さんである。軽妙な文体ながら、まさに渾身の、畢生の書と呼ぶにふさわしい。
居駒 永幸・経営学部教授(著者は元文学部教授)