Go Forward

「結束し毅然として事に当たる決意」

学長 大六野 耕作

本日、ここに卒業ならびに修了を迎えられた皆さんに、心からお祝いを申し上げます。

ご卒業、おめでとうございます。

また、これまで卒業生を陰日向に支えてこられたご家族の皆さまにも、心よりお慶び申し上げます。新型コロナウイルス感染症防止の一環として、入場定員が制限されていることから、この日を心待ちにしておられたご家族の皆さまを、桜が咲き乱れる春爛漫の日本武道館にお招きできなかったことを、誠に残念に思っております。

さて、卒業生の皆さんにとって、この1年はさまざまな意味で忘れがたい日々であったと思います。昨年3月25日、東京都知事からの外出自粛要請に続き、4月7日、日本政府から新型コロナウイルス感染症に伴う「緊急事態宣言」が発せられて以降、日本社会は激変しました。大学もこの障泥を受け、これまでの大学運営の常識を捨て、学生・教職員の安全を第一に、100年に1度といわれる新型ウイルス感染症の世界的蔓延に手探りで対応せざるを得ませんでした。春学期には、すべての授業科目をオンラインに移行させ、6月1日までは図書館、情報メディア教室等の使用も制限され、指導教員と会うことさえままならない状況が続きました。また、最終段階を迎えていた就職活動も、慣れないオンライン面接を中心としたものに移行し、対面で教職員に相談できない状態が続いたことから、不安に苛まれた方も多かったと思います。こうした先の見えない困難な状況の中で、卒業論文や修士論文・博士論文の作成に取り組み、本日、晴れてご卒業・修了を迎えられた皆さんに対し、学長として改めて敬意を表したいと思います。

われわれが経験したこの「生き難さ」は、皮肉なことに、これまで人間が築き上げてきた文明のあり方そのものや、人間の本質を浮かび上がらせるものとなりました。今から74年前、アルベール・カミュは、その作品「ペスト」の中で、得体のしれない感染症に遭遇した時の人間の心の動きを活写しています。漠然たる不安、つかの間の安心、恐れ、怒り、抵抗、そして閉塞感と孤立。人間は、いつの時代も、得体の知れない不条理に出合うたびに、同じ事を繰り返してきたのかもしれません。しかし、われわれは74年前のカミュの嘆きには与しません。いかに状況が困難なものであっても、あらん限りの知識と知恵を寄せ合い、仲間と共に強い決意をもって前に進む。これこそが、皆さんの母校、明治大学の「同心協力」の精神です。このことを、ぜひ心に深く刻んでいただきたいと思います。

依然として、新型コロナウイルス感染症の終息は見通せない状況にあります。皆さんが明治大学で培った知識、知恵、そして精神力を総動員して、それぞれの持ち場で、これまでの文明のあり方を問い直し、次代の文明モデル創造に貢献していただくことを心から期待しています。本年は、明治大学創立140周年の年に当たります。140年前、激動の時代に立ち向い、新たな時代を切り開こうとした3名の本学創立者(岸本辰雄、宮城浩蔵、矢代操)のように、刻苦をいとわず粘り強く努力し続けることで、「人間が人間として生きるに値する新たな社会(世界)」を生み出していただきたいと思います。明治大学の卒業生として「前へ」の気概を持って力強い一歩を踏み出してください。

最後に、イギリスのエリザベス女王が、BBCを通じて全世界に届けた次の言葉を皆さんにも贈りたいと思います。
“Together, we are tackling this disease, and I want to reassure you that, if we remain united and resolute, then we will overcome it…better days will return.”
私たちはともにこの病気に立ち向かっています。私たちが結束し、毅然として事に当たれば、必ず打ち勝つことができます……よい時代は必ず戻ってきます。

卒業生、修了生の皆さん、「力強く前へ!」

【卒業式次第より転載】