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本棚 「貿易の世界史-大航海時代から「一帯一路」まで」 福田 邦夫 著(ちくま新書、税込1100円)



貿易とは何か? 文中くり返される読者への問いである。341頁におよぶこの分厚い新書は、読み応え十分である。本書は、大航海時代以降の非西欧地域における植民地化と暴力的な略奪、奴隷貿易・奴隷労働の興亡、プランテーション型農業の発展と宗主国と植民地間の国際分業関係の変遷、そして戦後冷戦期からトランプ政権までの貿易利害を巡る相克の歴史を検証している。一読して、500年に渡って変化しつづけてきた貿易システムの構造がどのように形成され、かつ、転換してきたのかを理解できる。のみならず、この貿易システムを作動させるための「ルールづくり」が、市場の論理だけに従ったわけではなく、各時代のヘゲモニー国家による国家権力の発動と作用によって決定づけられてきたことを明らかにする。経済グローバル化がすすむ一方、他方で貿易戦争の勃発、EUのゆらぎ、「一帯一路」の伸張など、貿易問題はますます複雑化している。俯瞰的な高い視座をもつ本書は、まさに混沌とする現代世界をとらえるための「羅針盤」である。

所 康弘・商学部教授(著者は名誉教授)