Go Forward

本棚 「インタープレタティオ・ヤポニカ—アングロサクソン人の改宗と詩」 織田 哲司 著(明治大学出版会、税込2640円)



人間社会は目に映る物質的なものだけで構築されるものではない。普段意識に上らないだけで、その社会に属す人々が信じる善悪の価値観、世界観、死生観の上に成り立っている。

本書はドイツでルーン文字研究を通じ古代ゲルマン民族の世界観の再現に成功したK・シュナイダーの業績を縦糸とし、「まれびと」考で日本古来の死生観を浮彫りにした折口信夫の論考を横糸として、日本文化とゲルマン民族の文化の根底にあるパラレルな要素を詳細に考察する。

折口が目を向けたのは明治以降の近代化で上書きされつつあった日本古来の死生観、シュナイダーが追究したのはキリスト教がかき消そうとしたゲルマン的宇宙観である。ところがどちらも完全に消え去りはしなかった。意識されない形で民間習俗や地域の祭礼の由緒として、人々の運命観や道徳観の底流となって、今も息づいている。

時代的にも地理的にも遠い西洋の研究が、実は最も身近な世界を理解する糸口であると気付かせてくれる珠玉の一冊である。
下永裕基・農学部准教授(著者は農学部教授)