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「ポストコロナのキャンパス像」

研究・情報担当常勤理事 荒川 利治

コロナ禍の収束が見通せない現在、私達はウィズコロナの大学運営に注力している。しかし、考えるべきは感染症が終息した後のことであろう。アフターコロナの大学教育はコロナ禍の前の状態に戻ることではないからである。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界中の大学の運営、教育研究のあり方を見つめ直す絶好の機会となった。ほとんどの大学は対面授業をメディア授業に変更することを余儀なくされた。メディア授業は緒に就いたばかりであるが、大学運営の観点からもその有効性がわかってきている。この感染症によって、明治大学の情報化ビジョンの推進は急激に加速した。コロナ禍でのメディア授業を実践中の今から、アフターコロナの大学教育をICT活用による授業形態に移行する準備が本格的に始まろうとしている。特に、複数のキャンパスで運営する明治大学においては、遠隔授業の推進は総合的教育改革の大きな柱になる。メディア授業に苦手意識を持つ教員の資質向上、あるいは情報機器の導入と維持管理への多大の投資は大きな壁ではある。自らが受信・発信する情報に対する倫理観を学生に徹底し、情報セキュリティを後回しにすることは許されない。

これまでのわが国の教育は、学生がほとんど予習なしに講義を受講して、ノートをとるスタイルが一般的に行われてきた。コロナ禍での授業実施は教師と学生との双方向の関係性を確認する好機となった。グループ・ワーク、ラーニング・コモンズなどを組み込んだ予備学習を前提とする授業運営が必須となっている。

コロナ禍前の「選ばれる」大学の条件は、キャンパス立地の利便性や建物施設のおしゃれ感覚・豪華さが重要であり、これらの確認がオープン・キャンパスの目的の一つであった。近年はキャンパス近郊でのアルバイトの可否が大学選びで重視されており、キャンパスの都市回帰に拍車がかかっている。このような背景のもとで、キャンパス計画とその維持には、建物の更新方針に加えて情報・通信設備の整備計画も非常に重要になってきている。感染症や自然災害への対応、あるいは国際化の多様性を踏まえたカリキュラムの再編、メディア授業とコアカリキュラムの関係などは、今後も文科省等の基準緩和や柔軟な運用が予測できる。

欧米のいくつかの大学では、理系の実験・実習のための施設を優先的に整備する一方、文系は対面とリモートを併用した授業のための情報・通信設備を整備してきている。社会科学・人文科学の分野においても、数理、データ・サイエンス、AI(人工知能)の知識を育む文理融合の教育は当然のことである。正解を一つだけ求める問題では、真の意味で考える力を養うことはできない。AIからでは方向性が見いだせない問題に取り組むことでの課題解決法の修得が、デジタル時代に求められている。

アフターコロナでの大学教育をどのように再構築するかによって、大学評価が大きく左右されるのは自明である。

(理工学部教授)