Go Forward

本棚 『韓国漢文愛情伝奇小説』 日向 一雅 編、金 孝珍 訳注 ほか(白帝社、税込3520円)



「銭塘の周生は科挙に落ち流浪するが、幼馴染の妓女徘桃と恋に落ち同居する。しかし家庭教師宅の娘仙花に恋し徘桃は病死、紆余曲折を経て仙花と結婚することになるが、式の直前、秀吉の朝鮮侵攻への援軍に取られ朝鮮に渡るも仙花への募る思いはやまない」権韠が開城で出会った周生から聞いた話として書かれた「周生伝」は、周生から筆談で聞き取った話を小説化した作品である。本学金孝珍講師の訳註による、多くの詩を交えたこの作品は、恰も読むオペラである。19世紀まで東アジアの読書人は漢文という共通言語で、謡い、ものがたり、志を述べ、論じてきた。日向一雅本学名誉教授のもとに集った、日本・韓国・中国・ベトナム文学の研究者が、地道な読書会を経て「周生伝」を含む五篇の韓国漢文小説の「現代語」訳、注釈を日本の読者に贈ってくれた。19世紀まで東アジアの読書人たちの棲息した「漢文共同体」が今日なお生きていることを、言語の壁を越えて漢文を読み解き注釈した本書は、身をもって証明する。「現代日本語」に対する「古典語」の一方は「漢文」だったのである。
伊藤 英人・法学部兼任講師(編者は名誉教授、訳注は文学部兼任講師 ほか)