Go Forward

「機会志向で挑む」

総務担当常勤理事 田部井 茂

学生にとってのキャンパスライフは新型コロナウイルス感染症の拡大により、大きな制約を受けている。それは教職員をはじめ校友・父母、本学に関わる全ての人々も同様である。

大六野学長は3月に公開した「2021年度春学期開始に際して~学長からのメッセージ~」動画の中で、大学の本質は「協働の体験」、「協力し、ともに動く体験を通じた学び」にあるという結論に達したと述べており、「すでに出来上がった知識を伝え、修得させることだけが大学の目的であれば、オンライン教育だけで事足りるかもしれないが、大学の存在意義は、それぞれに異なった感覚や価値観を持つ人間が直接に触れ合い議論し、あるいはさまざまな体験を共有することによって、自ら意図するわけではなく、自然発生的にこれまでになかった視点やアイデアが生まれる点にある」と、大学の本質をあらためて明確に示された。

今、本学同様、多くの大学は本来の日常を取り戻すため、全力でワクチン大学拠点接種に取り組んでいる。日本で接種されているワクチンはファイザーとモデルナの2種類。どちらも、mRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)という新しい技術を用いているが、すでにあるインフルエンザなどのワクチンは「不活化ワクチン」と言われるもので、病原性を消失させて人間の体内に入れ免疫をつくる。一方、mRNAワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子を解析し、人間の体の中であえて新型コロナウイルスの外側のスパイクタンパク質を合成させて免疫をつくる仕組みだ。

このmRNAの存在は半世紀前から知られていたが、今回のワクチンに応用される道を開いたのは、ハンガリーの生化学者カタリン・カリコ博士らの研究によるものである。1985年に渡米し、紆余曲折しながらもペンシルベニア大学で助教授となり研究に没頭するも、彼女の研究は評価されず、研究費もしばしば削られる中、HIVのワクチン開発の研究をしていたドリュー・ワイスマン教授との出会い(コピー室で言葉を交わした)から共同研究が始まる。今回のワクチン開発に道を開く、常識にとらわれない発想による画期的な研究成果を2005年に発表した。しかし、当時はほとんど注目されなかった。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって大学も常識にとらわれないライフスタイルの変化が求められている。しかし、この認識の変化をイノベーションの機会に利用しようとして急ぎ過ぎることはリスクも伴う。一時的なものか、本当の変化か、見極めるのは難しい。だが、創立140周年を迎える本学が歩む道しるべとなるビジョン策定など、大学の多様性を担保する独立性や自由性、まさに本学が建学の精神とする「権利自由、独立自治」を何よりも大切にしつつ、機会志向をもって挑んでいきたい。