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本棚 「縫うコンピュータグラフィックス」五十嵐 悠紀 著(オーム社、税込2970円)



PCだけでなく、3Dプリンタやレーザーカッターなども手軽に所有できる価格となり、自分だけのモノ作りが楽しめるパーソナル・ファブリケーションの時代がやってきた。

本書は、ステンシル・パッチワーク・あみぐるみ・ぬいぐるみ・カバー・ビーズ細工などの多様な手芸を題材に用いて、CGやシミュレーションがどのような仕組みで行われ、どのように役立つかを豊富な図とともに易しく解き明かしたものである。各章で一つの手芸分野を取り上げ、それを支援するために著者自身が開発したデジタルシステムの振る舞いを通して、背景にある数学・物理・グラフ理論なども含めて具体的な技術を解説している。楽しい題材に即してこの分野の基礎知識と応用例を学ぶことができるユニークな本である。

また時折、研究テーマを見つけるきっかけとなった日常の出来事、支援システムを作るうえでの試行錯誤の過程などにも話題が広がり、生身の研究者の自然体の姿も垣間見ることができる。著者のやさしさ、温かさに溢れた本でもある。
杉原 厚吉・研究・知財戦略機構研究特別教授(著者は総合数理学部准教授)